
監督・製作・脚本:マイケル・ムーア
出演:ジョージ・W・ブッシュ
マイケル・ムーア
私は普段、ニュースもそんなに真剣に見てるわけでもないし、国際問題について発言しなきゃいけない立場にも無いので、9・11テロからイラク戦争への流れとか、実のところほとんど分かってないような状態でした。
実は、この映画を見る一ヶ月ほど前に、私に“マイケル・ムーア・ブーム”なるものが来ていました。きっかけは、テレビシリーズの『アホでまぬけなアメリカ白人』をレンタルで見た事で、それ以来、3巻出てる同シリーズを全て見たり、前作『ボウリング・フォー・コロンバイン』を見直したり、著作の「アホの壁inUSA」と「おいブッシュ、世界を返せ!」を読んだりと、まさに大ハマリ。映画は安くレンタル出来るものの、本の方は、近くに図書館も無いし、古本屋でも見かけないしで、わざわざ映画一本分ぐらいの値段もするバカ高い新品本を買ってまで読みましたからね。
と言う訳で、マイケル・ムーアファンとなった私は、映画最新作にして超話題作『華氏911』の公開を興味津々で待っていました。
ここで一応言っておきますが、私はムーアの主張全てに同調しているわけではありません。ムーア信者ではなく、ムーアファンです。政治的思想よりも、むしろその行動力(と、ユーモアセンス)に大いに惹かれるものを感じるのです。何と言っても、アカデミー賞での、ビリー・クリスタル主演の短編映画(と言うんだろうか・笑)において、わざわざパオームに踏んづけられに出て来た男ですからね。
さて映画ですが、内容は現大統領ジョージ・W・ブッシュをことごとく批判したもので、この男が、いかに馬鹿で大嘘つきの戦争屋の悪党なのかをこれでもかと描いています。
この映画で描かれる、ブッシュがついてきたウソやら、9・11以後の対応などは、この映画の原作とも言うべき「おいブッシュ〜」を読んでいたので、ほとんどが知っている情報でした。
ですが、それでも前半部分は込み入っていて、かなり訳が分からなかったですね。私のおつむの問題もありますが、何より、出てくる情報量が異常に多いんです。インタビュー映像やムーアのナレーションなど、会話量もかなり多く、しかも当然、皆さん英語で喋っておられるので、英語の分からない我々イエローモンキーは字幕を見なければならないわけです。で、これがまた、字幕を追うだけでも大変なくらい、台詞が多いんです。
それプラス、インタビューを受けてる人の名前やら役職やらも、台詞とは違う位置に字幕が出て来たりして、そっちも見ないといけませんし、何よりも映像の方も見ないといけません。
しかも、ここで語られる事の多くは、ただの会話ではなく「考えさせられるような事実」など、深いものです。と言う事は、字幕や映像を追うだけでなく、情報を脳内で吟味し、考えなくてはならない。
そんな器用な事、私にはとうてい出来ません(笑)。という訳で、原作を読んでいた事が大きな助けになりましたね。もし読んでなかったら、ムーアの訴えたい事の半分も理解出来ないうちに夢の世界に落ちて行っていたかもしれません。現に、私の2つ隣の席に座っていたオヤジはそうなってました(笑)。
と言う訳でこの映画、吹き替えで見た方がかなり分かりやすかったと思いますね。そう言えば私は『アホでまぬけな〜』も『ボウリング〜』も、全て吹き替えで見てるんでした。
『リディック』とか『サンダーバード』とか、今年の夏公開の映画は吹き替え版も同時上映される事が多かったんですから、この映画も吹き替え版を作って欲しかったですね。
ただ、最近の吹き替え版は「吹き替えキャストにタレントが含まれる」とか「エンディングテーマが若者向けの歌に差し替えられる」などの害が起こる事が多いですが、まさかブッシュやムーアの声をジャニーズの人達がやったり、戦争で息子を失った母親の声をイエローキャブの誰かがやるなんて事はないでしょう(笑)。
このように、映画の前半部分は、9・11の前後のブッシュの企みを膨大な情報量で語りきってきます。
そして後半は、「戦場と化したイラクの現状」、「現地の米兵の声」などが出て来ます。
爆撃の後の瓦礫から死体を探す民間人や、家族を殺されて泣き叫ぶ民間人。バーベキューになってる最中の人、トラックに積まれる子供の死体などの映像が映される事となります。こういうのを見ると「やっぱり、戦争なんてするもんじゃないな」と思いますね。
「おい、ブッシュ〜」では、何人の民間人が犠牲になったのかが数字で示されていましたが(約6千人だとか。9・11テロで死んだ人の数の約2倍です。まさに倍返しですな)、映画では「民間人に犠牲が出るという事はどういう事なのか」の一例が映像で示されたわけですね。
これが報復による攻撃ならまだ多少の筋は通ってると思います(やっていいか悪いかは別として)。でも、アメリカ本土でテロを決行して3000人のアメリカ人を殺したのは、確かビン・ラディンという奴で、イラクの民間人じゃないんですよね?
で、この、爆撃で廃墟と化したイラクの町では、アメリカを憎む、次期テロ候補が次々誕生してるんでしょうねぇ。
民間人だけでなく、兵士達の命だって尊いものです。これは、戦争映画でもよく語られる事ではありますが、この映画では「戦死した兵士の親の悲しみ」が出てきました。
「数千人の民間人に犠牲が出た」とか「数百人の兵士が戦死した」とか聞かされても、数が大きすぎるのか、あまり命が失われた事の実感が沸かないですが、この「戦死した一人の兵士の親の悲しみ」から、「一人の人間の死の重さ」というのが痛いほど感じられましたね。
さらに、その兵士達が、アメリカに命を捧げる覚悟満々の、ランボーみたいな人達ではなく、生活の為に軍隊に入った(または入らざるを得なかった)ような、ただの貧乏な若者達が多いというのは、何とも怖い現実ですね。
この辺の事とか、ブッシュ批判とはそんなに関係の無い事ですよね。どちらかと言うと、反戦メッセージであり、金持ち批判という感じです。
まあ、戦争を起こした張本人であるブッシュへの批判にも繋がるわけですが、思うにこの映画、ただ一人の人間のウソを暴き、追い詰めるだけが目的ではなく、「普段、つい忘れがちな道徳心」を思い出させてくれるような映画でもありましたね。
「イラク人は敵なんだから、死んでもしょうがない」「戦場では兵士が死ぬ事もあるさ」「兵士は皆、兵士になりたくてなった人達だ」等、特に疑問も持たずに考えていた人なんかもいるんじゃないでしょうかね(はい、すみません、私のことです)。
ムーアにとっては、ブッシュを倒す為だけを目的として作った映画なのかもしれないですが、見る人によっては、他の色々な事を考えるきっかけを与えてくれるような、懐の広い映画のような気がしましたね。
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