かりすま部長−prologe−- 2525hitリクエスト -

ある晴れた平日の午後。
「…あ゛ー…。まいった…」
スーツ姿の男は学生やサラリーマンの波に押し寄せられながら、しょぼしょぼと歩いていた。
「通天め〜…あっさりと人の仕事を横取りしおってからに…」
歩きながら今日の営業での失敗を思い返す。
「おまけに蓬莱の秘書はとことん人の足元を見る上に嫌らしい事ばかりいいおる!」
鞄とは反対の手に持った書類に目を通しながら、男はなおも一人愚痴を続ける。
「……明日はこっちにも謝りにいかねばならんか…」
関係会社のリストを見ながらまた溜息をひとつ。

男の抱えていた新プロジェクトは終了間近になって、ライバル会社キンゴウの邪魔にあい、昨日あっさり水の泡とされてしまったのである。
そのプロジェクトを担当していたのがこの男。名は元始。齢28。
ちなみにそのプロジェクトの邪魔をしたのが元始にとっては大学の同期である通天。
「…みてろよ通天!絶対にいつかこの借りを〜…お?」
ふと立ち止まった目線の先にあるのは自分の会社と同じ名のとあるファミレス。

「…あー。そういえばこんな計画もいつぞやにあったな…」
元始属する崑崙株式会社は緩やかに成長を遂げているまだ中規模の会社で、今は新業務の開拓に勤しんでいる。
今日は一日中平謝りの営業をしてきたせいか、かなり疲れていた元始はひとまず休憩を取ることにした。

からん。

扉をくぐるとともに店員の気持ちのいい挨拶がかけられる。
「おー。それなりにはやっているようだのう」
適当に空いている所を探す。
空いていたのは窓際の4人席。
「(まあ…壁際でこれ以上暗くなっていてもしょうがないか)」
端に自分の鞄を置いて椅子に座る。
途端にテーブルの上に軽く突っ伏してうなだれた。
「…にしても疲れた…明日もこれが続くとなると……本気でやる気うせるのう」
うなだれて、溜息をついていると、ことりと傍に水とお手拭が置かれた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
ウェイターの声に上体を起こしてその声の主の顔を見る。
「ああ、とりあえず……」
見上げた先にあったのは恐らく営業スマイルであろう。
ただその独特の髪色もあってか疲れの溜まった元始の目にはどうやら特別に見えたらしい。

「………。」

「…お客様?お決まりでなければ…」

がしっ。

元始が掴んだのはウェイターの左手。
がっちりと両手でその手を握っている。
ウェイターが左手に持っていたトレイが床に落下して大きな金属音をたてた。
店中の視線が一気に事のテーブルへ集まる。
突拍子もないその出来事にウェイターの笑顔が僅かに引きつった。
しかしそこは仕事人。笑顔を戻して聞き直す。
「お…お客様、ご注文はお決まりで…」

「君を。」

他のウェイターを含め、周りに居た誰もが元始を注目したのは言うまでもない。

橙色の髪のウェイターは一瞬呆けたものの、直ぐに立ち直って返し言葉を探す。
「申し訳ありませんが、そのようなご注文はございません」
完璧なスマイル。
至って冷静な返し言葉に元始もはっと我に返って立ち上がった席に座りなおす。
「…Aセット、飲み物はコーヒーで。」
「かしこまりました。」
ウェイターは注文を取ると、スマイルを残し、何事もなかったように下がっていった。

「…ふむ、あんな美形もおったとは…というか良く見ると美形ぞろいかここは」
店内を改めて見回して、よくもまあ揃いに揃えたものだと感心する。

「どうぞごゆっくり」
運ばれてきたAセットへの目線を程々に、ちゃっかり胸のネームプレートをチェック。
もちろんスマイルはしっかり堪能しておく。
ウェイターが完全に奥へ下がったのを見送ってから、元始はぽつりと呟く。
「『燃燈』か…うむ。」
食事を口に運びながら、にやけ顔の元始を見て、奥の客がひそひそと話していた。

-続?-


2、3年ぐらい前にリクエストを受けた現代パラレル元燃SS。
そうこうしているうちにリクエストをした本人はアイシに夢中。

喫茶店もファミレスもあまりいかないので細かい突っ込みはしないでください。
ちなみに実は2話もあります。
余裕と余熱があればシリーズ化予定。
そう。タイトルの意味はシリーズ化になって初めて生かされるのです。

まあなんにしても、文愉凜への貢物。返却不可です(笑)

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