壁に凭れかけて、顔をそのままに少し視線を上げた先に見えるなんとも整った顔を見る。
彼は元々王子様なのだ。
国を乗っ取られ、名前を変え、別人として生きている元王子様。
とうにお姫様を探す時期を無くしてしまったのか。
そろそろなりふりかまわなくなってきた様が…危険。
王子様はいつのまにか狼になっていたんだな。
だからってな。
俺はお姫様もどこぞの童話の主人公もごめんだ。
「アムロくん。少し話をしたいのだが時間はあるか?」
「…あるにはありますが、俺に何か?クワトロ大尉」
「そうか、ではさっそくいこうか」
「はい?」
俺はまんまと狼の待つ花畑に連れていかれたらしい。
誘われた先はクワトロ大尉の自室。
中に入った時には正直どこぞの空き部屋かと思った。
それぐらい殺風景だった。
「コーヒーでいいか?」
「あ、ああ」
壁に設置された台の上で、カップにインスタントのコーヒーを注ぐ。
カップにかぶせられた紙をはずして、近くに置いた。
「砂糖とミルク…」
「いくつかね?」
「…ひとつ」
「ん。ああ、適当に座ってくれ」
部屋の真ん中あたりに置かれたテーブルを挟んで対におかれた椅子の一つに腰掛ける。
「…それで」
「ん?」
テーブルの上に先程のコーヒーを置いた。
一つのカップのそばには砂糖とミルクが一つずつ。
それにそれらをかき混ぜるためのスプーンが一緒に置かれる。
「俺に話とはなんだ?シャア」
外でならまだしも、プライベートタイムに一つの閉ざされた空間に彼と二人きりになれば、もはや俺にとって彼は上司ではない。
彼は赤い彗星のシャア。
今この時間においては彼の前で部下の顔をする必要などどこにもない。
彼の『話』はそんな風に真面目に思っていた自分がばかだったと、そう思わせた。
…すべてがそう思わせる内容な訳じゃない。
最初のあたりは戦況についてとかこれから先の事とか、まともに戦争の話だったのだから。
最後が悪かった。
「すまなかったな時間をとらせて」
「いや…」
結局話の内容はブリッジなんかで話している内容とあまり変わらない。
さっぱりと本題が読めなかった。
シャアの意図がまったくの意味不明のまま廊下に出る。
狼の耳が見えた。
向かいにあった壁に肩を押し付けられ、俺の視界を遮ったのはシャア自身。
視線を上に向けると、鋭く蒼い眼がまっすぐに自分を見ていた。
一瞬心臓が鳴ったのは昔憧れたあの人を思い出したのだと信じたい。
その先は正直ショックで記憶が飛んだというべきだろう。
軍という閉ざされた中で、そういった趣味を持つ奴を知らない訳じゃない。
正直昔自分も被害にあった事はあるし。
それでも今回は…加害者があれなのが一番問題だった。
元王子様は狼で。
俺は童話の主人公にされたんだ。
ただし、物語は童話どおりには進まない。
ここに猟師はいないんだ。
いや?
猟師が来るのを望んでいないだけ。
今は自覚なんてしたくない。
否定したい自分の本音。
今はただ、黙っておく。
……修正一発ぐらいしておけばよかった。
-了-
また超SS。
シャアの性格は大体固まるんだけれども、アムロはなかなか掴みにくい。
書くたびに性格違うよアムロ大尉。
とりあえず。
カッコイイシャアを目指します(Σぐっ!)