それはある夏の日の朝。
「異母姉様。おはようございます」
人前ではあまり見せないような笑顔を浮かべて、自室を出てきた竜吉公主に声をかける。
「…おはよう。燃燈」
「大丈夫ですか異母姉様。今日も暑いようですし…ご無理はなさらぬように…」
公主はいつもの服より薄めの服装でありながら、いつもよりもだるそうな顔をしている。
「確かに今日はいつもより暑いようだのう。燃燈。
時間があれば、冷たい麦茶でも飲んでいかぬか?」
「迷惑でなければ」
公主の部屋はさすがというか、特に不必要なものは片付けられ、すっきりとしていた。
「適当に座って待っていてくれ」
「はい」
どこからか涼しげな空気が入ってくる室内に、落ち着いた気分で待つ…筈だったが。
現実は厳しいものだった。
「どこの部屋も同じですね」
「そうじゃのう…昨夜からもう暑くて暑くてなかなか寝付けないほどであったよ」
「…寝不足には気をつけてくださいね」
湿気のこもった室内。
清潔さは保たれているために、別室よりは清涼感のあるものであったが、
実際の室内温度に変化はほとんど見られなかった。
「執務室もこのような感じか?」
「ええ。似たようなものです」
用意された氷入りの麦茶を飲みながら、たわいない会話を交わす。
最近のこと・仕事のお話などなど…暑さをまぎらわすように話を続ける。
が。
やはり世の中ごまかしきれないこともある。
「暑いのう」
「…ですね」
麦茶も切れ、話のネタも切れた頃。
先ほどよりも気温が高まった室内で、二人は向かい合って暑さにうなだれる。
「のう」
「はい?」
「暑くないか?その服。」
「は?」
いきなり何を言い出すのか。
服の暑苦しさというか、開放感のようなもので言えば、
断然公主の着ている薄い長袖の服の方が暑いだろう。
かわって燃燈の服といえばかなり上半身は開けているのだからその差は歴然としたものだ。
「そんな真っ赤な服を着ていて暑苦しくならんか?」
「……」
「おぬしはもともと炎に形容されるような者だしのう。炎はやはり熱いという印象がある訳で…。
実際の所、お主は夏が似合いそうだし。その…なんだ…やはり赤い色が暑さを連想させるというか…」
「………」
ミーンミーン…
それから、燃燈が暖かい空気の流れる部屋を後にしたのは数分後の事だった。
部屋にいる間、何一つ会話を交わさずに。
執務室にやってきて数分後。
「なぁ燃燈。」
向かいに座っていた張奎が尋ねる。
「…なんだ?」
「その赤い服さぁ。涼しそうだけど、見てるこっちは暑苦しいよ。その長い肩布とか」
「…………」
ばさっ。ごとごと。
脱いだ上着を自分の机におくと、再び扇風機の横に座り込んだ。
-了-
夏のお話外伝風。
時間的に見るとこの後に「夏のお話」です。
一応「夏のお話」は楊太で進んでいきます。