家庭の事情- "sakura"sidestory4 -

蓬莱島で行われている花見。
昼から急遽行われたにしては多くの仙道達が参加していた。
参加者の中には神界からやってきたであろう人々の姿もちらほらと見える。

長い川沿いに咲く桜の木の中でもひときわ大きい桜の木下では、 黄一家がのんびりと久しぶりの家族団欒を楽しんでいる。
「花見か〜。親子そろって花見なんて何年ぶりだろうな」
片手にお猪口を持ちながら、自分の真上で大輪の花を咲かせる桜の木を見上げて、 黄飛虎はのんびりとしたこの時間を楽しんでいた。
「そうさねぇ。おれっちが仙界入りしてからは、 こんな風に過ごす時間なんてほとんどなかったからなぁ」
その隣で息子の天化が同じようにのほほんとしている。
家族団欒とはいっても仙界にいる家族のみで、 今この場にいるのは飛虎・天化・賈氏・飛虎の妹黄氏そして仙界に戻ってきた天祥のみであった。
「天祥、もう一杯どうさ?」
「え、い…いや、俺はもういいよ」
周の将軍として一度は人間界に戻った天祥だったが、 役目を終えた後は仙人界に戻り、神界に封じられたのであった。
「いーからのんどけ、のんどけ。こんなに酒がうまくなる時間なんてそうはねぇんだから」
父飛虎に言われて天祥は渡されたお猪口を片手に持つ。即座に天化が酒を酌んでやる。
「ん〜…ま、いっか。」
一呼吸おいて、その手にもったお猪口に注がれた酒を口に運ぶ。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
天祥がのどに流しいれようとした途端、背後から激しい爆風と叫び声があがった。
流し込んだ酒を呑み損ねたせいで天祥が咳き込む。
「なんだなんだ!?」
慌てて飛虎が立ち上がり、煙の立つ方向を睨む。
「ま…まてナタク!!頼む!落ち着け!!!」
爆風の中から慌てて出てきたのは金タクと木タクだった。
遅れて李靖が飛び出てくる。
「…ああ…やっぱりナタク兄ちゃんか」
「見たいさね。」
「本当に相変わらずだなぁ。あそこは」
爆発の原因が判明すると、黄一家は何事も無かったようにのんびりと花見を続ける。
「巻き込まれないうちに移動するか?」
ポツリと飛虎が呟く。
「多分大丈夫だよ。…まだ」
酌みなおした酒を口に運びながら天祥が答える。

そこから少し離れた場所。
竜吉公主は他に比べると多少背の低い桜の木の下で、風に吹かれながら一人座っていた。
その足元にはまだ使われた様子の無いお猪口と酒の入った徳利が二組。
「ふふ…向こうは随分と騒がしいようだのう」
誰に語るとも無く言葉を漏らす。
「異母姉様!こんな所にいらっしゃったのですか?」
花見が始まってから数時間。口約束のいらない待ち人がようやく訪れる。
「言ってくだされば直ぐにここに…」
「お主は立場上、最初からここにおる事は出来ぬであろう?
だからここで待っておったのだよ。それに、言わずともここに来たではないか」
先ほどまで公主の察する通りのことをしていた燃燈は、言葉をつまらせる。
そんな弟を見て公主は笑いながら徳利を手にもって燃燈を誘う。
「さ、一緒に呑もうか」
既に酒の多少入っている燃燈だったが、姉の誘いを断るはずも無く、すんなりと隣に座る。
燃燈は、注がれた酒をのどに流しいれて一息つき、口を開く。
「あの、異母姉様…ずっとここに一人でいらっしゃったのですか?」
自分の顔を見ずに言う彼に微笑みながら言葉を返す。
「まさか。最初は赤雲や碧雲達と一緒に呑んでいたよ。 まあ…一人になってからは2、3時間ぐらい待っておったかのう」
燃燈をからかうように言葉を繋ぐ。
案の定燃燈は多少の動揺をみせながら首を下げて謝る。
予想通りの反応を見せる弟に微笑しながら、ゆっくりとした時間を楽しんでいた。

「…!…異母姉様。少々席をはずします」
話をしていた場所から少し離れた所に懐かしい面々を見つけた燃燈は公主に声をかけ、 その場を離れようとする。
同じ方向にその訳を見つけた公主は顔を綻ばせて軽く頷く。
「ああ…そうだのう。ではまた一人で待っておるかのう?」
「それなら異母姉様も一緒にどうですか?」
既に大騒ぎになっているであろう場所を見た燃燈は多少気が引けるものの、 一人にするよりは、と公主を誘う。
「いや、いいよ。ゆっくりとしてくるといい。 もっとも、本当にゆっくり出来るかどうかはわからぬがな」
その言葉に燃燈も苦笑しながら一礼して歩き出そうとする。
「ようダンナ!!ひさしぶりぃ!!!」

どん!ばっしゃぁぁぁぁん!

すさまじい勢いで背中から突き飛ばされた燃燈は川に落ちて水柱が立つ。
燃燈が飛び込まされた時の水音の中に、小さく鈍い音が立ったことに突き飛ばした本人はおろか、 公主さえも気づいていなかった。
「公主も久しぶり!や〜それにしてもすっげぇ綺麗な桜だなぁ」
燃燈と同じ顔立ちと、同じ朱い色の髪をもった青年は、 燃燈が川に落ちた事を気にも止めず公主に話し掛ける。
「おお、呂雄。お主も来たのか、神界のコントロールは大丈夫なのか?」
「ああ!ほれこの通りばっちり!!」
いいながら手にもった千里眼を見せる。
千里眼はその力を使ったままなのか、淡い光をその中に宿らせている。
「そうか、ならいいのう」
「おう!……あれ、ダンナは?」
その外見から察する年齢に伴わないような無邪気な笑顔を浮かべてから、 先ほど自分が突き飛ばしたであろう燃燈の姿を探す。
「お主が突き飛ばして川に落ちたぞ?まああやつの事なら大丈…」
「わぁぁあぁぁあぁ!!?なんか赤いやつが流れてるぞ!!!!」
その声は先ほど燃燈が行くはずだった十二仙が集まっている辺りからした。
呂雄と公主は顔を見合わせて騒ぎの方向を見る。
「赤…!人だ人!!」
太乙が流されている赤い影をみて声を上げる。
「あれは……燃燈ではないのか?」
なおも流される赤い影を見ながら玉鼎がポツリと言葉を漏らす。
『………』
場の空気が止まる。
「上流から流れてきたよな…さっきからうごかねぇし…」
慈航が先ほどの情景を思い出しながら呟く。
「やべぇ!!急いで引き上げろ!!!」

先ほどとは一風違った騒ぎの向こう側を見ながら苦笑する二人。
「だ…大丈夫…であろう。多分…」
「は…はは……後で覚悟しといた方がいいかな…」
騒ぎの続く方向をみながら、公主は無言で頷いた。

夜の静けさが訪れても、その日、蓬莱島に静寂は訪れなかった。
笑いと幸福の空気が流れるその場所に、静かな風が通り過ぎる。

次の陽が昇る頃、いつもと同じ静けさとともに暖かな風が吹き、
草花や木々の花を優しく揺らしていった。

-了-


楊太関連内にある"桜"の外伝第4弾。

というわけで外伝はこれで終了*
本当は公主と燃燈(+呂雄)のお話は別にする予定でしたがめんどくさ…いやいや、短いので一緒にしました。
本当に短いのかなんて突っ込みはいれないように。
因みに時間的には"無礼講"の前。

あ、そうそう。これだけ設定が微妙に異なってます;
ごめんなさい;
理由は呂雄を出したかったから。
というわけで"つくし"にて普賢が「元始様の…」とか言ってますけどまあ、これだけ設定が違うという事で
許してやってください;;;;
そうなると最初の燃燈さんの科白に対しての文章が矛盾してくるけど…置いておこう(苦笑)

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