Kidding or Cragy?

―――来るんじゃなかった。
元始天尊に連れられやってきたこの場所で、燃燈は後悔の念にかられた。

それは、両仙人界の関係を抑えるために数年に一度行なわれていた、和解の為の話し合いの場での通天教主の一言から始まった。
「元始、この際だ。互いに手の内を曝け出そうではないか」
「ほう。手の内というと?」
お茶をすすりながらとぼける元始。
「何を言っている。お前が密かに結成させた十二仙とかいう者達の事だ」
「"密かに"とは人聞きが悪い、お主こそ十天君とかいう者達を結成させておるではないか」
この二人も、両仙人界の関係を表しているかのように仲が悪い。
お互い戦力を自分の所で溜めている事に互いに不満を募らせていた。
「相手がどれだけの力を持っているのか判らぬから不安が募り、緊張が生まれるのだ。 互いの持っている戦力が判れば争おうなどとは思わぬだろう」
と通天教主は言う。
「それは自分の所の戦力に自信がないから言っているのか?」
それにまるで喧嘩を吹っかけるかのように元始は答える。
「崑崙の門下ごときに恐れる訳がない。そちらこそ自信がないのではないのか?」
「よく言うのう…では比べてみようではないか」
もはや当初の目的からずれてきている事に二人とも気付いてはいない。
これでは和解の為の話し合いの場というよりは単なる子供の喧嘩の場である。
何にせよ、 この話から十二仙の筆頭である燃燈が崑崙の代表としてこの場に狩り出されるのは必然的な事だった。
そして、キンゴウ島の代表として現れた二人に燃燈は頭を痛めたのである。
「あらん、元始天尊さ・ま。ごきげんうるわしゅう」
「いやぁ元始君。お目にかかれて光栄だよ!!!」
ごーじゃすな音楽と共にあらわれた二人。
あまりの登場の仕方に元始と燃燈はあっけにとられた。
「…この二人がキンゴウ島一番の力を持った妖怪仙人で、仙女の方が妲己。仙人の方が趙公明だ」
どうやら通天自身、この二人には頭を抱えているようだ。
こめかみを抑えながら二人の紹介をしている。
元始ははっと正気を取り戻すと燃燈に自己紹介をさせた。
「崑崙山霊鷲山は元覚洞洞主燃燈道人。 キンゴウ島の教主であり三大仙人と呼ばれる通天教主様にお目にかかれる事ご光栄に思います」
元始の横にひざまずき、自己の紹介を行なう。
勝った、とばかりの笑みを浮べる元始は、燃燈が自分の紹介を終えた後に付け加えた。
「燃燈は、今は失われつつある"術"を扱う事のできる唯一の仙人じゃ。 十二仙もこやつが殆ど一人でまとめておる。我が崑崙でも群を抜ける力の持ち主じゃ」
「…一番力のあるのはあの仙人界の宝ともいわれる竜吉公主ではないのか?てっきり公主を連れてくると思っていたが…」
「竜吉公主は体が体なのでな。それに今でこそ、こやつの方が力は上だ」
"今でこそ"という言葉に通天はわずかに不思議がったが、それについて追求はしなかった。

そのあと、元始と通天はいつもの通り話し合いを始めた。

残された3人は話し合いの場から少し離れた岩の上で楽しそうに話をしている。
といっても楽しそうなのは妲己と趙公明だけであったが。
「やっぱり少し残念だね。せっかくあの仙界で1、2を争うといわれる美貌をもつといわれる竜吉公主に会えると楽しみにしていたのに」
「あらん?趙公明ちゃんってば酷いわねん。わらわが一番美しいに決まっているじゃない」
そんな二人のやりとりに完全無視を決めていた燃燈は、話を横耳で聞きながら眉間にしわを寄せて黙り込んでいる。
もちろん、今日会うのが始めての二人は燃燈と公主が異母姉弟である事を知らない。
「それにわらわは十分に満足してるわよん…」
いいながら妲己は燃燈に近づく。
「ねぇ燃燈ちゃん?さっきからそんなに怖い顔して…折角なんだから一緒に遊びましょうよ」
大岩に背をもたれさせている燃燈の横に立った妲己は、彼を挑発するかのように流し目を送りながら彼の頬をその手で触れる。
「断る」
燃燈は頬に触れた手を払いのけてきつい声で言った。
「燃燈ちゃんてばつれないわねん」
「結構だ。」
体を寄せてくる妲己から一歩横にずれてまた瞑想を始める。
「そんなに硬くならずに少しぐらい良いじゃないか燃燈君」
二人の様子を見ていた趙公明は口を出す。
「そうよん、少しぐらいいいでしょ燃燈ちゃん?」
「断る」
二人の誘いにまたも一言で返す。
「いいじゃないの燃燈ちゃん」
「…ちゃんづけで呼ぶのはやめろ」
さすがにそれには我慢できなかったようだ。
こめかみにうっすらと筋を浮べ、両目を閉じたまま低い声で言う。
「おやおやどうやら怒らせてしまったようだよ?」
「燃燈ちゃんたらこっわ〜い。おこっちゃい・や」
語尾にハートマークでもつきそうな甘え声をだしながら、つん、と燃燈のこめかみの辺りを人差し指でつっつく妲己。
燃燈の組んだ腕に隠れた手に力がこもる。
眉間には先程よりもしわが寄っていた。

―――抑えろ…これぐらいの事で怒ってどうする。

二人のからかいから自分を抑えながら、また瞑想を続けようとする。

―――ここはもともと両仙人界の関係を保つための場なのだ。
ここで互いの代表としてでた私達が喧嘩でもしようものなら仙人界の関係を崩しかねない…。

自分を落ち着かせ、冷静に考え始める。
そんな燃燈の考えを知ってか知らずか、妲己と趙公明はなおもからかう。
「おやおやこんなに人が仲良くしようと誘っているのに、こんな素っ気無い態度をとるだなんて」
「そうそう。失礼しちゃうわねん」
とはいいながらもお互い楽しそうな顔をして二人でステップを踏んでいる。
「(…どっちが!!)」
再び無視を決め込んだ燃燈に妲己は他にからかうネタはないものかと話を探す。
「あ〜あ、やっぱり妲己つまらないわん…きっと竜吉公主だったらもっと一緒に楽しく話せたでしょうに…」
「ねえさまがお前達などと口をきく訳がない」

無視をすると決め込んでいた燃燈だったが、いつのまにか二人のペースに乗ってしまっていたのだろうか。
ふと思ったその言葉を思わず口に出してしまった。

『……』

ひとときの時間が過ぎる。燃燈は今自分が口に出した言葉にはっとした。
『ねえさま!!?』
妲己と趙公明の声が綺麗に重なった。
自分の出した言葉に果てしない後悔の念を置きながら、燃燈は顔を俯かせて右手を顔に当てる。
「ほほぉう…あのうわさの竜吉公主に弟がいたとは…」
感嘆する趙公明。
「あらん、でも公主のご両親は仙人なんでしょ?…それなら燃燈ちゃんも純血種なのかしらん?」
「それはないよ妲己。仙人と仙人の間にできた公主でさえ奇跡と言われているのだから。 さらに弟が生まれるなんて、奇跡どころの騒ぎじゃないよ」
勝手に話を進めながら騒ぐ二人。
変な解釈が加えられるよりも前に自ら公主との関係を明かす。
「…私とねえさまは腹違いの姉弟だ!!!」
ぴたっと騒ぎが止まる。
「では異母姉弟ということか」
「やるわねぇん、竜吉公主のお父上も」
納得の仕方が謎の方向へむいている妲己を無視して、燃燈は趙公明の答えに頷く。

「(正直、この話で騒がれるのを避ける為に言わなかったのだがな。まあ、これで納得してくれれば…)」
などと考えを巡らせている燃燈の思考も空しく…。
「それで竜吉公主はいったいどれほど美しい人なんだい?僕よりも美しいとは思えないけどね!!」
「何故異母姉様と貴様などを比べなければならん!!!」
やはり二人のペースに完全にはまっているのかもしれない。
燃燈は間髪いれずに趙公明に突っ込みを入れた。
「そうよん趙公明ちゃんってば、公主の方が美しいに決まっているじゃない。ま、わらわには敵わないけどねん」
「いや、異母姉様のが美しい」
握り拳を握ってきっぱりと言い切った。
…半分逆切れを起こしているのかも知れない。
完全に騒がれるだの、仙人界の関係がどうだのという事を忘れている。
「…燃燈ちゃんはシスコンだったのねん」
「…同感」
燃燈に聞こえぬように細々と呟く二人。
当の燃燈はまだ握り拳を握っている。
どうやら二人の予想以上に自分の姉を崇拝しているようだ。
さっきから拳を握ったままぶつぶつと華麗だの清楚だのと一人で語っている。
「そういえば燃燈ちゃんは術が使えるのよねん?どういう術が使えるのん??」
妲己は一人公主を熱く語る燃燈に、別の話を持ちかける。
「そうだね、僕も見てみたいよ」
それに続く趙公明。我に帰った燃燈はもとの冷静さを取り戻して答える。
「生憎、私はどこぞの輩に自分の手の内をみせるほど甘い人間ではない」
「少しならいいじゃないのん、まだ教主様達の話も終わらないみたいだし」
頷く趙公明。
「そんなことを言うのならばまず自分達が手の内を見せてみろ」
その言葉に妲己と趙公明は目を輝かせて、いそいそと何かの準備を始めた。

「……いや、やっぱりやめておこう。」
二人が準備をしている最中の様子をみて、何か悪い予感でもしたのであろうか。
燃燈は準備が始まってまもなく、先程の言葉を撤回した。
二人は残念そうに用意し始めた舞台を片付け始めた。
「残念ねぇん、せっかく一ヶ月以上かけて準備してたのに」
「そうだね、本当に残念だよ」
がっくりと肩を落とす二人を半眼で見ながら燃燈は溜息を一つこぼす。
「(舞台に照明に細い糸に…一体何をしようとしていたというのだ)」
呆れながら深い溜息をもう一つ。

「まだかしらねぇん」
長い時間を待って、いい加減飽きてきたのか。妲己が愚痴をこぼす。
「ねえ、燃燈道人。君は暇だとは思わないのかい?」
「瞑想でもしていれば時間など直ぐにすぎさる」
瞑想をしていた燃燈は、目を閉じたままきっぱりと答えた。
「ねえ、燃燈ちゃん。やっぱり何か少しぐらいみせてくれてもいいんじゃない?」
趙公明がまたも妲己の言葉に合わせて頷く。
ようやく静かになった中で瞑想をしていた燃燈は深い溜息をついて大岩にもたれていた背を離した。
「静かに瞑想もできんな」
一言愚痴をこぼすと自分達が乗っている浮遊岩に左の手をついた。
『?』
二人は燃燈が何をしようとしているのか見当がつかず、疑問の表情を見せている。

「破っ!!」

燃燈が気合を入れる。

途端に自分達の座っていた浮遊岩に、燃燈を中心にしてひびがはいった。
まもなく、そのひびにそって岩が砕けちり、3人の体が空中に舞う。

「―――!!?おっ…」
「おちるぅうぅぅんんん〜〜〜!!!」

空中に二人の声がこだますると共に二人の落下し始めた視界が瞬時に止まった。
燃燈が妲己の腕と趙公明の服を掴んで空中に止まったのだ。
「案ずるな、浮遊の術だ。お前達が暴れない限り落ちはしない」
近くの浮遊岩に二人を降ろしてやる。
『……』
妲己と趙公明は互いに驚きを隠せずにあっけらかんとしていた。

「燃燈、そろそろ帰るぞ」
二人を岩の上に降ろした所で後ろから元始の声がかかる。
「わかりました」
元始に向かって返事を返した後、二人の方を向いて一礼する。
「では先に失礼させていただく」

燃燈と元始が崑崙山に向かって去った後、直ぐに通天が二人のもとに来た。
「二人とも、帰るぞ……お前達どうした?」
妲己と趙公明は崑崙の方向を見ながら唖然としている。
「(この様子だと、あの仙人になにか感化されたか?あれに見習ってまともに修行をしてくれるようになればよいが…)」
密かに考えていた事が上手くいったように思えて、通天は僅かに笑みを浮べた。

―――十二仙の筆頭、燃燈道人。
ということはその上の人間である元始君は、彼よりも強いのだろうな。
…彼らと本気で戦う事ができたら…ああ、考えただけで興奮する。

―――この世界はわらわの予想以上に大きいのね。
崑崙にでさえあれほどの人がいるなんて。
わらわも本気で修行を始めないといけないのかしらねん。
それに、今はもう失われつつある"術"。
……少しばかり研究してみようかしらん?

本当に通天の考えていた通りに感化されたのか。
それは定かではないものの、二人はこの後、以前よりも修行に力が入る様になったという。

崑崙に帰った燃燈は友人であり同じ十二仙の玉鼎と、剣の修行に励んでいた。
「どうだった?話し合いは」
「話し合ったのは元始様と通天教主だけだ。私達は別の場所で待たされていた」
話をしながら手合いを繰り返している。
横では異母姉の竜吉公主が二人の稽古の様子を見ていた。
「そうじゃなくて、お前から見たキンゴウ島のトップの感想は?」
振り下ろされた木刀を払いながら、燃燈に感想を尋ねる玉鼎。
「手合ってはいないから詳しい事はわからん。だが、実際に戦えばお前達よりも実力は上だろう」
「厳しい批評だな。遠回りに私達にもっと鍛えろといっているようだ」
玉鼎は間合いを広げるために後ろに飛んだ。
「性格は悪かった!」
燃燈が広がった間合いをつめ、勢いをつけて両手で持った木刀を垂直に振り下ろす。
「今のお前の様子をみていればわかるよ。太刀筋一本一本に怒りがのせられている。そうとう機嫌を損ねさせられてきたようだな。
……だから筋が甘くなってる!!」
がっ、という音と共に燃燈の手から木刀が離れ、喉元に玉鼎の木刀が突き付けられた。
「…参った」
「気は晴れたか?」
ああ、と一言答えて燃燈は玉鼎に背を向ける。
「では、後はお茶でも飲みながら詳しい話でも聞かせてもらうとするかな。最近いい茶葉が手に入った所だし、飲んでいけ」
「そうだな、そうさせてもらうとしよう」
落ちた木刀を拾ってから、玉鼎の後ろについて竜吉公主と共に彼の洞府へ赴いた。

"封神計画"が始まるずっと前。仙人界の、平凡な、とある一日。

-了-


完全なギャグです。
『時間の感じ方』よりも前に書き終わってはいたんですが、アップするのに少々抵抗があったというか…
というよりもやっぱり公主との話を先にのせたいという気持ちから出し惜しみ決定*

本当は妲己ちゃんの名前はオリジナルを考えようとしてたんです。
…仙人界にいる頃は違う名前の筈ですからねぇ。
めんどくさいのと混乱すると言う理由からそのままにしました(爆)

そしてエレガントは私には重荷だったようで。

まあ、この小説の一つの目的だった(え?)燃燈さんの"公主崇拝"はできたので良しと。
さりげに妲己の燃燈さん誘惑シーンも目的であったり…。

因みに"金ゴウ"は個人的に"キンゴウ"の方が違和感ないと思うので。

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