此処にきて何度目かの秋が訪れる。
仙道にとって気温の変化はそう変わりはないものの、肌に感じる風は冷たいものに変わってくる。
今、この体を通り過ぎる風は、普通の人間にとってはどれほど冷たいものなのか。
「よく、そんなところに立っていられるな…寒くないのか?今日は特に冷えるっていうのに」
普段よりも一枚ほど余分に服を着て廊下を歩いてくる武王は、
いつもとかわらない格好をして廊下の手すりに手をかけている僕に言葉をかける。
「羨ましいですか?」
「別に。」
強がりをいっているのか、それとも別の意思があってのことか。
「四季を感じるのはいいことじゃねぇか」
どうやら後者のほうだったらしい。
「それより太公望は?」
「…師叔ですか?」
"旦が探していた。"そう伝えるように僕にいうと、
彼は寒い寒いとつぶやきながら執務室へと向かった。
多分、また師叔が倉庫の中のものをつまみ食いでもしたのだろうと予想をしていると、
目の前の茂みがガサガサ音を立ててゆれた。
「師叔…そんなところで何をしているんです?」
特に大きくもない、そこまで小さくもない茂みからさきほどの探し人が顔を出す。
「―――声が大きい」
顔の前に一本だけ指を立てて僕に囁き掛ける。
僕は口をはさむようにして顔の前に開いた両手をだすと…
「武王!ここに―――」
瞬時に師叔の小さい手のひらが僕の口を塞いだ。
「お主は何を考えておるのだ!!!?わしが何のために茂みに隠れておったと!…」
「そんな大声を出したら見つかりますよ?」
師叔ははっとして勢いで乗ってしまった手すりから足を降ろし、僕を睨み付けた。
「今度は何を盗み食いしたんです?…桃はとうに季節が過ぎてしまっているのでしょう?」
「おぬし秋の味覚というものを知らぬのか?」
「食欲の秋ですか…」
僕はふっと一息ため息をついた。
「それはそうと、おぬしというものはだな、人がせっかく隠れて…」
「かくまってあげましょうか?」
「いらぬ。」
その問いに師叔は即答した。まさに髪の毛が一本入る隙もなく。
「周公旦さ―――!!」
再び師叔の手が僕の口を塞ぐ。
「お・ぬ・し・と・い・う・も・の・は〜…」
顔にしわを寄せた師叔をよそに僕はその顔にやさしく笑みを浮かべた。
「もう目を開けていいですよ。」
楊ゼンの言ったとおりに目を開くとそこには大きな湖が広がっていた。
同時に、目の前には山々が広がっている。
赤く染まった山々が、僅かな緑を残した山々が。
高くそびえ立つその山は湖にその姿を逆さに映している。
突然目の前に広がったその光景に思わず目を見開いて見入ってしまった。
秋の風が体を通り抜ける。その秋風にのって赤く染まった葉が遠くへと飛んでいく。
赤い葉っぱが何枚も空に舞い上がる。湖の上で一回りしてまた遠くへと飛んでいく。
そこには春の桜とはまた、一味違った穏やかな、落ち着きのある空気があった。
「赤い色は、感情を高ぶらせるという」
ポツリと口から言葉が漏れた。
「人に流れる血の色だからか?」
ぼんやりと、目の前に広がる景色に見入りながら口の中に現れる言葉を出す。
「自然にある朱色とはこれほどまでに落ち着かせてくれるものなのかのう」
空の青と、うっすらとかかる白い雲。それに、うっすらと残る緑や茶色の葉。
それらを鏡のように映し出す湖。
自然の作り出した色の調和はこんなにも感情を穏やかにさせる。
「さ、そろそろ戻りましょうか」
楊ゼンの声がかかるとともにわしの両肩に白い布がふわりと掛けられた。
「楊ゼンさんたちどこいってたさ?」
戻ってきた二人を迎えたのは竹ぼうきを手に持った武吉や天化たちだった。
なにやら庭から煙が上がっている。
「お、お…お主たちいったい何をやっておるのだ!!?」
「ん…ああ、向こうの煙のことさね?」
「今ちょうど焼き芋をやっているところなんですよ。そろそろ焼ける頃です、
行きましょうよお師匠様!!」
武吉は太公望の腕を引っ張って焚き火のほうへと連れて行く。
「焼き芋!?それを早く言わぬか!!」
"焼き芋"という言葉を聞いたとたんに太公望はその顔をほころばせて、
武吉に半分引きずられかけながらも庭の方へと駆け出していった。
「…ああ、また食欲の秋に戻っちゃったかな?」
「楊ゼンさんもそんな所で溜息をついてないで早くくるさ。
早くしないと天祥たちに焼き芋全部食われちまうさ」
手招きをする天化のほうに軽く返事を返して、
楊ゼンも先ほど太公望たちの向かった先に足を進めた。
「ほれ、おぬしの分じゃ。おかわりはないぞ?」
焚き火のたかれている辺りまでくると太公望が半分の焼き芋を楊ゼンに手渡した。
自分は頬いっぱいにつめているようで頬をムグムグとさせている。
「…僕の分も食べますか?師叔」
「いらんのなら食う。」
「冗談ですよ。ちょうど誰かさんを遠くまで連れてったおかげで小腹がすいていますしね」
半分になった焼き芋を受け取ると、
皆が集まっている場所とは少し離れたところに太公望をすすめた。
「こんなところでは寒いではないか」
「いいじゃないですか他の人にこんなところ見られるよりは」
「…何もしておらんぞ?」
「これからするんですよ」
にこやかに笑いながら太公望の肩に左手を掛ける。掛けられたほうに首をかたげてその手を見る。
そして楊ゼンに向かって満面の笑みを浮かべた。
「師叔…」
不意に視界から太公望の顔が消える。
「……」
手に持っていたはずの焼き芋は太公望の口の中へ入っていた。
「やはり秋は焼き芋に限るのう」
幸せそうな顔で頬をもぐもぐとさせている。
「ああっ!!?ひどいじゃないですか師叔!!僕の焼き芋を…」
「お主がいらなそうだったから食ったのじゃ。さっさと食わぬ方が悪い!!」
両腕を組んで答える太公望。楊ゼンはむすっとした顔をしてから、太公望の肩をつかんだ。
今度は両腕で。そして自分の唇を太公望の唇に重ねる。
「…………!!」
肩をつかんでいた手の力を抜くと太公望は楊ゼンを自分から引き離す。
「やはり焼き芋の味がしますね」
楊ゼンは太公望の顔を見てにっこりと笑う。
「―――な……ば…ばかものーーーー!!!!!!」
平和な庭に太公望の平手打ちの音が響いた。
-了-
楊太四季シリーズ第1弾。
まだホームページ開設前に書いたもの。
某友人のHPに投稿した小説です。
途中で一人称になったり三人称になったり・・・。
わかりにく。(−−;)
そして初の完結した楊太小説です(爆)
いつもオチがつけられない故に完結しない。