妲己によって再びはちゃめちゃとなった仙人界と人間界。
今も黄天祥やその他仙道たちが復活した妖怪仙人達と激しい戦いを繰り広げている。
そんな中で、外界と切り離された世界。
ここ桃源郷では、ここしばらく激しい爆音と、
この世のものとは思えない叫び声の上がる日が続いていた。
「うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
今日も元気な叫び声が、ここ桃源郷の山中に響き、その声は山の麓の平和な村にも届いた。
「なんだべ?」
「いつもの『あれ』だべ。きにするでねぇよ。」
あれとはなにか。謎は…深まるものでもなかったりする。
数秒前の事。
「冗談じゃねぇ!!あんなの出来るわけねえだろうがっ!」
そっくりな顔の、赤と白の二人が山中にある滝の傍で言い争いをしている。
言い争いと入っても片方が一方的に騒いでいるだけであったが。
「お前が未熟なだけだ」
「ダンナの言ってる事がむちゃくちゃなんだよ!何が『滝を切れ』だ!!」
白い服に見を固めた、
もう片方に比べると若い青年がもう一人の赤い服の男を指差しながら怒鳴っている。
代わって、赤い服の男は深いため息をつきながら青年に言葉を返す。
「…呂雄。お前には才能があるのだ、もっと真面目に修行をやれば…」
「俺はこれ以上ないほど真面目にやってる!!」
呂雄と呼ばれた青年は、返された言葉に対し、即答する。
「まだ精神面が甘い!……一度落ちてみるか?」
「は?」
その言葉に問うが早く、呂雄は赤い服の男に蹴り飛ばされていた。崖の向こうへ。
「――燃燈のばかやろぉぉぉぉおぉぉうぅぅぅぅううぅあああぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
哀れ、呂雄はまっさかさまに滝壷の中へ向かって落ちていった。
そして、冒頭の叫び声に続くのである。
「――…まあ…大丈夫だろう」
目の前に上がった水柱の飛沫を浴びながら、なんとも気楽な声を上げる燃燈であった。
「さて、この間に畑の様子でも見にいくか」
『働かざるもの食うべからず』
いかに燃燈といえどもこの桃源郷の掟に例外はなく、封神計画の頃から居る彼も、当然のこと畑を耕していたのである。
かくして、滝壷に落ちた呂雄を放ったまま、彼は山を降りた。
それから数時間後、よれよれの体で川から這い上がった呂雄は、その川辺で一時休憩をとっていた。
「〜…死ぬかと思ったぜ…」
呂雄の落とされた滝壷の傍には、またも小さな滝が流れており、
それは普通の人間ならば確実に命のないような急流が続いていた。
「ダンナはやる事がむちゃくちゃなんだよな〜。もうちょっと玉鼎さんみたいな優しさがあってもいいだろうに」
ぶつぶつと文句をいいながら、水浸しになった呂雄は再び先ほど滝壷におとされた岩場に向かった。
だが、当然の事そこに燃燈の姿は無く。
「人を突き落としといてそれかよ…人情のかけらもねぇな」
山を降りる頃には服も渇き、日の暮れた頃、ようやく呂雄は現在住処としている小さな家屋へ辿り付いた。
その家屋はいつでも簡単に取り壊せるような、とても簡単な作りの家だった。
「これ見るたびに思うけど…これってダンナが建てたんかなぁ?」
「まさか。作物と交換で建ててもらったのだ」
ふいに後ろから声をかけられて、呂雄は振り向きながら飛び退いた。
「うっわ!?」
「封神計画の間ずっといなければならんかったのだ。いつまでも野宿ではなにかと困る。
…とはいっても本来なら計画が終わり次第、ここも直ぐに壊す予定だったのだがな。」
手に大きな籠を抱えながら話す燃燈。
「それはいいけどさぁ。なんだよその格好」
呂雄は、先ほどの服とは違う燃燈の服装を見ながら問い掛ける。
「ん?畑から作物を採りに行っていたのだが?後はできた作物の交換にな。」
籠の中から種類の違った野菜を二つほど取り出しながら答える。
「なんかよう。やっぱり笑えるよな、あのダンナがこんな所で畑作してるなんて」
「いうな。大体仙界製の肥料で普通より楽に育つのだから、実際の農業よりも簡単だ。…それよりもさっさと中にはいれ」
「お…おう」
土に汚れた燃燈に押されながら、呂雄は少々狭い家屋の中に入る。
家屋の中は、生活に必要な最低限の物だけで構成されており、外見よりも広々としていた。
呂雄が壁の傍で腰を降ろして一息をついていると、突然彼に向かって丸められた毛布が投げつけられた。
顔面に直撃した毛布は、軽く広がりながら呂雄の膝元に落ちる。
「って!?なんだよダンナ!」
「直ぐに服を脱いでそれに包まっていろ。まだ少し濡れているだろうからな」
呂雄は唖然とした表情で汚れた服を脱いでいる燃燈の顔を見上げる。
「…ぼーっとしていないで早く脱げ。今代わりの服を持ってくる」
「あ、ああ」
燃燈にいわれたまま、いそいそと服を脱いで膝元に落ちた毛布で自分の体を包む。
その毛布の暖かさに、自分の体が思っていたよりも冷えていた事に気付いた。
「ほら、代わりの服だ。それを着た後でも毛布に包まっていろ。風邪でもひかれたら迷惑だ」
呂雄に着替えを渡してから、燃燈は傍にあったいろりのように石で囲まれた中心に薪を組む。
「…疾っ!」
組んだ薪の上で軽く片手を振ると、薪の中心から火が起こった。焚き火である。
「お〜。火種要らず」
「茶化していないで服を乾かせるように木を組め」
「ほいほい」
呂雄の気楽な返事を聞きながら、燃燈は先ほどの野菜を使って調理を始める。
毛布に体を包めながらも、もそもそと動いて簡単な服かけを作り、
自分から焚き火が遮られない場所に自分の濡れた服をかけた木を置く。
先ほどよりも多少焚き火に近づくと、より焚き火の暖かさを感じる事ができた。
焚き木の熱を感じながら、ぬくぬくとしていると、燃燈が焚き木の上に作っておいた支えを使って鍋を火にかけた。
「あ〜」
焚き火の勢いが弱まったのをみて、呂雄が残念そうな声をあげると燃燈が口を開いた。
「お前は飯がいらんのか?」
「…いる」
どうやら鍋の中身は今夜の夕飯らしい。
「でも飯作るならあっちでやればいいじゃんかさ〜」
「向こうは別のものを作っている。」
確かに、奥にある調理用の薪にも火がついているようだ。
その上には小さな鍋も見える。
燃燈が一人で調理するのに、二つの鍋を同時に使うなど珍しい。
いつもならば自分も手伝う時しか同時には使わないのに。
そんな事を思いつつも目の前で煮立ち始める鍋に目を向ける。
奥の鍋が湯気を立ち始めたのを確認すると、燃燈はかき回していたお玉を呂雄に渡し、奥で煮られている鍋の様子を見に行った。
「…野菜スープだ。熱いからゆっくり飲めよ」
奥から戻ってきた燃燈に手渡された器には、暖かいスープが入っていた。
「一体どうしちまったんだよダンナ?」
「なにがだ。」
驚きの表情を見せている呂雄の問いに、腰を降ろしながら問い返す。
「いつもなら『さっさと食べてさっさと寝ろー!!』とか言ってるのに、なんで今日は妙に親切なんだ?」
「今日お前が流された川は特に水温の低い場所だからな。
さっきも言ったが、今お前に寝込まれては困る。…いつ妲己が動くのかも判らんしな。
できれば早めに修行を終わらせたい」
「そっか。そうだよな…早く…天祥達の力になれるようにしねぇとな」
焚き火の灯りが暗くなった部屋を照らし、ぱちぱちと言う音が静かになった部屋に響く。
食事を終えた二人は、自分の毛布に包まって眠りに就こうとしていた。
燃燈は焚き火を消した後、毛布に包まって座った状態で壁に凭れながら目を閉じた。
「なあ、いっつもそんな格好で寝てて疲れないか?」
先に寝る準備に入ったはずの呂雄が声をかける。
「万が一を考えての事だ。お前は気にせずに早く寝ろ。明日も修行は厳しいぞ」
「いらぬ心配ってか。だよな。ダンナの修行は誰よりも厳しいからな」
半分以上は本気で、多少の冗談を混ぜて言ったその科白に、
燃燈がわずかな反応を示したように見えたのを気のせいにしようとしつつ、自分も目を閉じる。
「…すまんな」
少し後、小さな声であったが、燃燈が口を開いた。
恐らく呂雄が眠っていたのならそのままにしようと思っての事だろう。
「あんだよ?急に謝ったりして」
燃燈に背を向けた状態で、呂雄は返事をする。
「――本来なら、術の修行など何十年、何百年とかけて行うものだ。
元々は、お前に術の修行を受けさせるのだってそのぐらいの時間はかけるつもりだった」
燃燈はうっすらと開いた眼で見える視界から呂雄をはずしたまま話を続ける。
「だが…こんな事態になってしまったために、お前には荒療治の修行しかしてやれん。
ただでさえ私は、お前から『姿』という権利すら奪ってしまったのに…」
――計画がなければ、この「姿」はありえなかっただろう
今この事件が起きていなかったのなら、ここにはいなかっただろう。
「お前は、元始様の後を継ぐと…そう言ったな」
そして全てが片付けば、きっと彼に自由は無い。
本来ならば自分が継ぐべき…継がざるを得なかった役目。――
――神界の管理者――
「私はお前を利用しているに過ぎない…術の伝承者として。お前が宝貝の妖怪仙人だから、半永久的に肉体の続くお前を利用し…」
「やっぱりわかんねぇよ。ダンナが謝る理由。」
今まで背を向いて話を聞いていた呂雄が、燃燈の方へ向く。
「言ったじゃねぇか。俺は今の姿に何の不満も無い。修行だって…そりゃ厳しいのは辛いけど、俺尊敬してるんだぜ。ダンナの事」
「な…」
横になりながらも、しっかりと燃燈の顔を見て話す呂雄。
「ダンナは計画の間、ずっとここに居ながら計画の為に動いてたんだろ?
連絡係の、なんだっけ。そうだ黒鶴…っていうやつと会ってる時以外はずっと一人で。
俺にはそんな事できやしねぇし、なんたってダンナはあの十二仙をまとめてた人だろ。
そんなすげぇ人に荒療治でも修行してもらえるんだ、すげえじゃねぇか」
あっけにとられている燃燈を他所に、呂雄は天井を向いてさらに話を続ける。
「それに、まだ修行初めてからそう経ってねぇけど、わかるぜ。自分が確実に、少しずつだけど強くなってるの」
「呂雄…」
天井に向けて自分の手を伸ばしながら、その手を見つめている。
「あ、あとよ。」
口を開きかけた燃燈を遮って、言葉を繋げる。
「『利用』なんて言うなよ。ダンナはこんなに俺の事心配してくれてんじゃねぇか。
風邪をひかないようにいろいろしてくれたり…まあ、川に落ちたのはダンナのせいだけどな。
そりゃ滝壷に落ちたやつ放っておいて一人で山を降りるとか、他にも冷たい所あるけどよ。
今は全部俺の為に、俺を分かってるからの行動だろ?
少なくとも俺は、ダンナに利用されてるなんて思った事ねぇよ。
元始師匠の後を継ぐのだって、自分の意思で決めた事だ。ダンナは関係ねぇ」
「……」
「だから、自分を責めんなよ。落ち込んでるなんてダンナらしくねぇぜ」
気持ちが随分と楽になった気がした。恐らくそれは気のせいではないだろう。
そう考えると、燃燈は浅いため息をついて口を開いた。
「そう…だな。……さて、それじゃあ早く寝るか。明日は今日の続きをやるぞ」
いいながら燃燈も横になる。
「…まじかよ!?」
「当り前だ。あれは初歩だからな」
呂雄は絶句して、そのまま眠りに就いた。
昼間の事があってか、このまま口論を続けるほどの気力はないらしい。
直ぐに整った寝息が聞こえてくる。
呂雄の穏やかな寝息を聞きながら、次第に燃燈も眠りに就いた。
次の朝。
「ぎゃああぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁ!!!」
いつも通りの叫び声は桃源郷中にこだまするのであった。
そして意外な所にこの被害を受ける人物がいたのである。
「老子さん?なんかすごい不満そうだけど」
呂雄の様子を見に着た天祥が羊の上で眠っているはずの老子に声をかける。
「最近叫び声に起こされる事がよくあってさ。文句言ってきてよ」
「えっと…もう少し、我慢しててください」
「我慢するのもめんどくさいのに…」
結局、この後数週間以上もこの怪奇な叫び声は続いたとか。
-了-
はい。ゲーム設定です。
まともに話全体に呂雄が出てきたのはお初ですね。
インデックスでもファーストでも楊太よりも先に「燃燈」って言ってるのに楊太小説のが多いとはこれいかに。
と言う感じだったので。
半分本気です。
個人的感情としては呂雄は弟君です。
子供とか彼○とかの位置関係のが多そうだけど。
どこを見ていってるかは秘密です(笑)
頼りがいのあるお兄さんv
いいですねぇ。<何が。
っていうか最初はギャグだったのに。
これは最後まで集中力持ちませんでした。
相変わらず書ける時に徹夜して書いてます(実話)
ちなみに燃燈さんの農作業服は田舎って感じで*