「随分伸びたのう。そろそろ切るか?」
「何をです?」
燃燈は執務室の机の上で筆を進めながら返事を返した。
異母弟の様子を見に来た異母姉―竜吉公主は燃燈の後ろに立ち、彼の癖のついた髪の中で自分の細い指を遊ばせている。
髪の間に指を通す度に、朱い髪の毛が引っ掛かって指の動きを止めた。
「おぬしのこの髪の毛じゃ」
少しばかり勢いをつけてその指を髪に通す。
途中で引っかかった指は髪の毛を引っ張り、勢いをそのままに燃燈の頭が引っ張られる。
急に頭が動いた所為で、動かしていた筆先が正しい道から大きくずれた。
「…取り敢えず先程取った髪紐を返して頂けませんか?」
後ろに反った頭を前に戻しながら、汚れた書簡を置いて新しい書簡を取り出す。
「わざわざ紐で縛らずとも、髪の毛を切ればよかろう」
以前からそう短くはない髪の毛だったが、彼の強烈な癖のおかげであまり邪魔とは云えなかった。
しかし、現在中途半端に伸びた髪はその重さによって髪紐を解くと、
強めの波がかかったまま、髪の毛自体の重さで下に垂れた。
「仕事が溜まっているのです。時間ができたら自分で切ります」
「お主はそのまま仕事をしていればいい。私が切ってやろう」
「それでは仕事に集中できませんよ」
二人のやり取りを横目で見ていた楊ゼンは、まとめ終わった書簡を閉じて彼らの話のやり取りに口を挟んだ。
「髪の毛を切るだけでしょう?それぐらいの遅れなら構いませんよ。
それに切ってもらえるというのなら仕事をしながらでもできるのでは?」
「お前は癖がないからそういうことが云えるのだ」
「そうじゃな、枝毛もできておるようだしのう。ちと厄介そうじゃ」
燃燈の髪の毛を探りながら公主がぽつりと言葉を漏らす。
「え…枝毛!?そんなものをつくるほど僕は髪の毛の管理をずさんにしてはいませんから」
自慢の青い長髪を手でなびかせながらなにやらポーズをとる楊ゼン。
途端に先程しくじった書簡が楊ゼンの顔めがけて飛んだ。
楊ゼンは直撃する直前に首を反らせて書簡をぎりぎりの所でかわす。
「危ないじゃないですか!!顔にあたったらどうするつもりなんです!?」
「一人では追いつかないと言って手伝わせているのは何処の誰だ!!!」
両手を机の上について楊ゼンと口論を繰り広げ始める燃燈。
二人の姿を見ながら公主は一つ溜息をつく。
そして、口論を続ける燃燈の髪をぐいっと引っ張った。
話をしていた最中に髪を引っ張られてまたも頭が上に向く。
「とにかく!これで時間はできた訳だ。今から髪の毛を切ってやろう」
「…わかりました」
少々不服な顔をしながら渋々と椅子に座る燃燈。
「ほうきを持ってきます」
「お前が変化してくれた方が早いのではないか?楊ゼン」
「遠慮しますよ。僕の華麗で純潔なイメージが壊れてしまいますから」
先程の口論の余韻が残っているのか、憎まれ口を叩くのを忘れない二人だった。
公主が部屋から持ってきたくしを取り出し、燃燈の髪を梳き始める。
毛先から順々に、ゆっくりと、優しく梳いていく。
「―――っ」
それでも髪の毛が引っ掛かった。
同時に何かが折れる音がする。
「…お主相変わらずだのう」
髪の毛を引っ掛けた際にくしの一部が折れたようだ。
「す…すみません」
即座に謝る燃燈を見ながら一つ溜息をつき、公主は別のくしを取り出す。
数分後。ようやく梳けきった髪を自分の宝貝を使って軽く濡らし、手に持ったはさみで髪の毛を切り始める。
しゃきしゃきと、自分の髪が少しずつ切られていく音を聞きながら、燃燈は幼い頃の事を思い出していた。
「(あの頃も、こうやって異母姉様に髪の毛を切ってもらっていたな。…憧れて、少しでも異母姉様の様に強くなりたいと思っていたあの頃――)」
「こんなものかのう?」
そう言って、以前程の長さに切った彼の髪の毛を優しく梳いてやる。
「あ…ありがとうございます異母姉様」
まだ少々濡れているにも関わらず、もう癖が出始めている燃燈の髪を梳きながら公主はその顔にふっと笑みを浮べた。
「異母姉様、どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ」
髪の毛を梳き終えると、楊ゼンの持ってきたほうきで床に散らばった髪の毛を一箇所に集めて片付ける。
「あれ燃燈、いつの間に髪の毛切ったんだよ」
外に調査に行っていた張奎が、声を上げる。
「さっき公主に切ってもらってたんだよ」
「…シスコン」
燃燈には聞こえないように呟く。
「何か言ったか?」
「な、なんでもない。う〜んそれなら僕も蘭英に切ってもらおうかな」
張奎も燃燈と同じ様に髪の毛を切る暇がなかったために、一度は短く切った髪が殷にいた頃のように長くなっていた。
「いきたいならいってきなよ」
「そうしてくる」
集めてきた資料を机の上に置くと、彼はまた廊下に出て行った。
数十分後。また髪を短く切ってきた張奎をまじえ、再び三人は仕事に追われる事になるのであった。
-了-
ようやくの初燃燈様小説ですv異母姉弟ですvvv
突発です。…誰か私にギャグセンスを下さい(TワT)/
髪の毛を切りにいくということで思いついたお話。
最初は気楽に書き始めたのですが。
途中の燃燈様の回想は入れると長くなってしまうためにカットしました。
因みに、くしの梳く部分が折れるのは私の体験談(笑)
本当に折れました。
友達に梳いてもらった時もブラシの櫛部分折れました。ポキポキと。(実話)