殷周易姓革命の数年後。再び妖狐妲己が現れ、一時的に仙道や妖怪達の争いが起きた。
その紛争も周の将軍黄天祥や、多くの仙道達の元で終結をみる。
その数ヵ月後…。人間界では雪の降るころ、蓬莱島では。
「ううう…寒いのう…」
蓬莱島の執務室では太公望が全身を震わせながら、仕事に慎む楊ゼンの前で批難の声をあげていた。
「なら、部屋にいっていればいいではありませんか。今僕はこの前の事件の後始末で忙しいんですよ」
楊ゼンは筆を動かしながら太公望に向かって少々冷たげに言葉を放つ。
太公望はちょっとムッとした顔をして楊ゼンを睨んだ。
「寒いのう寒いのう!この老体にはこの寒さは厳しすぎるわ!!それにしてもこの教主はこの困っている老人をほおっておいて仕事仕事と、冷酷な仙人さまだのう!!」
そっぽを向いてわざと聞こえるように声をあげる太公望。
「…なにをして欲しいんですか…」
「こたつが欲しい!!」
一つ溜息をついて尋ねた楊ゼンに太公望は即答した。
「あと蜜柑に桃にあったかいお茶に…」
「……」
次々と遠慮なしに請求する太公望に、楊ゼンは一瞬目を見開かせる。
「それに…アンマン・甘露・毛糸のセーター…」
未だ言葉のとまらぬ太公望に向け、楊ゼンは彼に向けて無言の重圧をかける。
「…と…いうのは冗談だ。…だが、こたつは欲しいぞ」
楊ゼンから無言の重圧をかけられて、太公望は軽く20は言ったであろう要求を取り消す。
…一つを残して。
「あったかいのう…」
満面の笑みを浮べてこたつに潜る太公望は、『至福の時を過ごしているぞ。』と、いわんばかりの言葉を漏らす。
「そうですねぇ…」
先ほどまで机の上で仕事をしていたはずの楊ゼンも、書簡の一部をこたつの上に置いて筆を進めている。
太公望は、どこからもらってきたのか蜜柑の皮を向きながらほんわかと和んでいる。
「師叔。いつまでここにいられます?」
「行こうとしてもお主が嫌がるではないか」
「そうですか?」
「まあ、いまは楽しいしのう…」
のんびりとした、他愛もないやりとりが続く。
「……」
皮を向いた蜜柑から房を一つ剥ぎ取り、それをじっと見つめる太公望。
「どうしたんですか師叔」
「…楊ゼン」
「はい?」
太公望はその手につまんだ蜜柑の房を一つ楊ゼンの前に差し出す。
「……」
楊ゼンは顔をきょとんとさせて、しばしの間考える。
数秒の後、こたつに両手を入れて口を開けた。
太公望は蜜柑の房を楊ゼンの口の中に入れてやる。
「………」
楊ゼンは口をもぐもぐとさせながら、その顔に満面の笑みを浮べる。
「うまいか?」
「はい、おいしいです」
太公望の目がきらりと光る。
「ならばこれはどうだぁぁぁ!!!」
こたつの中に入ったまま、再び蜜柑の房を一つ、楊ゼンの顔の上に向けて投げた。
「なんの!」
上体をずらして上から落ちてくる蜜柑を口で受け止める。
「…やるのう」
「いえ…」
その言葉のやり取りが交わされると同時にごとごとと書簡の落ちる音がした。
この執務室は、教主の他にも人間・妖怪それぞれの代表が仕事を片付けるための机も置いてある。
こたつはその3つの机の間、ちょうど扉からみて目の前、嫌でも目に入る所に置いてあった。
落とした書簡を運んできた人物は妖怪代表の張奎、その後ろには現人間界代表…にされた太乙が立っている。
そして、その後ろの人物は今の光景を見て固まった張奎の横をすり抜けて、無言でこたつの台の下を片手で掴んだ。
「10秒前〜、9…8…7…」
つかつかと太乙が部屋の中を進みながら、何かのカウントダウンをはじめる。
楊ゼンと太公望は状況を理解できずに、楊ゼンの位置の対になる位置で、こたつを掴んでいる人物の表情を窺う。
彼は表情を変えずに台を掴んでいる。
「6…5…4…」
カウントダウンは続く。太公望ははっと何かに気づいたようで、慌ててこたつからぬけ出て上に置いてあったお茶と蜜柑を避難させる。
「3秒前、2、1、0」
「なにをやっとるかあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
こたつを掴んでいた人物−燃燈は片手でこたつをひっくり返した。
燃燈の対の位置に座っていた楊ゼンは、カウントダウンの最中に太公望がこたつから抜け出た理由にようやく気づくが…すでに後の祭り。
哀れにもひっくり返ったこたつの下敷きになった。
「真面目に仕事をしているだろうと思ってきてみたが…いったい何を…!!!」
怒鳴りつける燃燈を太乙が抑える。
「まあまあ、こんな寒いんだし。こたつぐらいは許してあげようよ」
なおも言葉を続けようとする燃燈を抑える太乙をよそに、張奎が下敷きになった楊ゼンに近づく。
「いきてるか〜?」
張奎は楊ゼンに声をかけるが、楊ゼンは反応しない。
そこで太公望も下敷きになった楊ゼンに声をかける。
「のびとるのか?…お〜い?」
反応はない。暫しの後、太公望がぽつりと呟いた。
「起きたら"きす"してやろうか?」
台に潰されていた楊ゼンが跳ね起きる。すかさず太公望が言葉を繋げる。
「冗談だv」
「……!!!!」
がっくりと肩を落とす楊ゼン。いや、それよりも目の前にいる人物の気配にびくついた。
ゆっくりと顔を上げると、燃燈がこちらに睨みを利かせている。
「いや…その…大丈夫ですよ!きちんと仕事は…」
「蜜柑で遊びながら?」
「あれは…別に…」
「先のこともあるのだ。お前はもっと教主としての自覚をもたねば…」
説教が始まる。そこにいた誰もが考えた。慌てて太乙が止める。
「それは承知の上だって、なにせ楊ゼンなんだしね。だから大丈夫。それよりもこっちの仕事を早く終わらせようよ」
燃燈の腕を引っ張り、机に向かう太乙。どうやら太乙の手伝いとしてここに来たようだ。
元々彼が人間代表であったことも含めて、仕事を手伝わされることになったのだろう。
ひっくり返った机を元に戻す楊ゼン。こたつが戻ったのをみて、太公望がお茶と蜜柑を元のこたつの上に戻した。楊ゼンは人数分のお茶を淹れる。
そして、仕事を済ませるために渋々と机に戻った。
外では雪が降っていた。
振りつづけた雪はいつのまにか積もっていた。
気が付くと、蓬莱島は真っ白な雪が降り積もって、一面雪景色が広がっていた。
あるものは自然のままに眠りについて、あるものは家の中で温もりを求めた。
いつのまにかはじまった宴会を抜け出して、太公望は蓬莱島の表面を歩いていた。
雪の降り積もった、地面の上を歩いていた。
「どこへ行くんですか?」
楊ゼンが彼を呼び止める。彼は足を止めた。
「信じられるか?ここは宇宙船の中だ。」
太公望は後ろを向いたまま呟いた。
その言葉に楊ゼンが補足するかのように言葉を繋げる。
「これが始祖の持っていた文明」
「これは気象システムの異常じゃない」
空を見上げ、降りゆく雪を見つめながら、太公望は云う。
「この蓬莱島の中に四季を作り出しているのですね」
「じきに雪は溶け、春が訪れるだろう」
「また戻ってきますか?つくりものでも、ここの春を感じに」
「どうかのう?」
振り向かず、答えた太公望は、その足を前に進める。
「桜が咲くころになったら、みんな桜の木の下に集まります。自然とね」
楊ゼンが言葉を繋げた。その言葉を聞いて彼は笑った。
振り向かずに。
穏やかに。微笑んで。
そして、どこかへ消えた。
「あなたも…自然にここに帰ってくるんでしょう?」
作り物の空を見上げながら、楊ゼンは笑った。
-了-
楊太四季シリーズ第2弾(笑)
12月に凜さんから”元気の出るメルを〜”といわれたので作成。
実はメールの新規作成のページで作った物だったりします。(−−;)
もちろん貢ぎ物;でもこっそり加筆してあったり。