雪の華- snow flower -

蓬莱島。
かつて始祖の生き残りが使っていた宇宙船は、今仙人の住まう島として活気にあふれている。
そんな活気が今日は静まり返り、皆白い世界になりつつある船の中で静かに過ごしていた。

「雪、ですよ師叔」
緑が散り、空や土に潜む命はその時をただ静かに過ごしている。
命の眠る土の上を楊ゼンと伏羲は二人歩いている。
楊ゼンはふと後ろを振り返って空から降り行くうっすらと光輝く雪を見つめる。
「わかっておるわ。それぐらい」
「…そんな冷たいこと言わないで下さいよ。また積もりますかね?」
「積もるにきまっておる。そうプログラムされておるのだから」
楊ゼンは自分よりも僅か前を歩く伏羲に話し掛けるも、彼は振り向く事無く冷たい言い回しで払う。
「でも、蓬莱島の気象システムは確か限りなく自然に近づくように組み立てられているはずでは」
「…普段はな。しかし、一年に数日は必ず決まった天候になるようにインプットされておるのだ」
伏羲はその場に立ち止まり、ふと空を見上げて呟いた。
「どれだけ自然に思えてもここは作り物。所詮はまやかしだ」
「僕らにとっては本物ですよ」
優しい声に思えたそれに振り返り、声の主の顔を見る。
「これが、自然だと?」
「僕らは世界の真実を知りましたから。ジョカという今はなき歴史の道標という存在を。そして行いを」
幾度となく壊された世界は道標によって作り直され、改編され、昔確かに存在したその歴史へと導かれたこの世界。
今を生きる自分らに、今残る遺跡の時代にはあったであろう本当の自然を知る術はない。
楊ゼンの知る限りで伏羲を除き、 もっとも長く生きている人物ですら恐らく人の誕生よりも何十年、何千年も後の時代を知るだけであろう。
「今の時代だけを生きるお主らにはそれを見分ける術などありはしないか」
「違いますよ」
「違う?」
今一度空を見上げ、音もなく降り続く雪を見る。
「僕らは初めて見る生命。僕らがこの時代に存在し始めた時、すでにそこにあったものだからです」
伏羲は眼を見開いて楊ゼンの顔を見る。
「それを生み出したものなど、関係ないでしょう?少なくとも僕らの歴史だけを生きる僕達にとっては」
伏羲を前にしてそう言い切る楊ゼンをじっと見つめる。
柔らかい表情を見せながら、楊ゼンはただ自分を見つめる伏羲の方へ微笑を向けている。
「…ぷっ」
神妙な顔から一変噴出した伏羲に楊ゼンは呆気にとられる。
「それもそうだ。いや、実際王奕…伏羲の記憶さえなければこのわしとてここを人工の物とは思うまい」
先程の真面目な表情はもはや何処にも見当たらないほど腹をかかえて笑っている。
「な…なんですかそれ」
「ん?まあそこにいるものの受け取り方次第ということだな」
「…それはそうですが…」
どうにもどこか腑に落ちないような気がする楊ゼン。
「ではそろそろ戻るかのう。かなーり寒くなってきたしの」
再び前を向いて歩き出そうとする伏羲。
「…師叔」
「ん〜?」
振り返った伏羲の右頬にそっと左の掌を触れさせて、顔を近づける。
「先程の話。そこにいた時、すでにそこにあるものが自然だと…」
「それが?」
「だから、僕ら…僕にとって貴方は太公望でしかありえないのですよ」
「…。」
「真実がどうあれ、僕らにとってはそれが自然の姿」
楊ゼンの言葉を聞いて、太公望は口許を緩めて微笑んだ。
「そうか」
そんな太公望を見て、楊ゼンは優しく微笑んでから、唇を重ねた。
外の空気に晒されて、冷たくなった唇から相手の体温が伝わってくる。
触れ合った唇を離して、微笑みあった。
「…そろそろ、戻りましょうか」
「うむ」
帰りは、片手を繋いで、お互いのぬくもりを相手に伝えながら、歩いた。
服越しに冷たい空気を感じても、繋いだ片手はいつまでも温かかった。

-了-


題名は中島美嘉です。はい。
深くは考えないで下さい。
お馬鹿な管理人にはこれが限界なんです;;;

誰かの歌をイメージとして利用させて頂いた小説を載せるのは初めて;
歌詞からのイメージって苦手なんです。

ちなみに伏羲の呼び方が途中で変わるのは意識してでの事です。
自分の小説の中でよくあるような気がする…。

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