独占欲






新年の儀式は今年も滞りなく終わろうとしていた。
この諸侯の拝謁を終えれば、あとは宴のみ。
とっくの昔に倦んでしまった様子の王ではないが、この単調な儀式はさしもの自分でさえも嫌気がさしてくる。
深く息を吸い込んで気分を改めようとしたその時、血相を変えた下官が走り寄ってきた。
あまりの慌て様に思わず身構えた自分に告げられたその内容は、新年早々に頭が痛くなるようなものだった。


曰く、延王がおいでになられた、と。










宴が繰り広げられる室内はざわざわと喧騒に包まれていた。
その首座にあるは勿論この慶の美しき女王。
黒一色の大裘から着替えたその姿は、祥瓊たち女官が心血を注いだだけあって素晴らしいものだった。結い上げた艶やかな髪は歩揺と飾り紐で豪奢に纏め上げられ、細かな刺繍が施された衣は髪に合わせた紅。重ねる衣は慶事を表す黒。肩口と襟から覗く襦は繊細な透かし編みで、女らしさを際立たせている。どこから見ても完璧なその姿は、今日王宮に集う者たちの視線を一身に浴びていた。そんな美しい女王を密かにとはいえ一人占めしていると思えば、己のつまらぬ自尊心も十分に満たされる。
ただ、その隣にかの王さえいなければの話だ。
恐らく自国の儀式を放り出してきたのであろう延王は、さも当然のように首座に、つまり主上の隣へと座り、なにやら楽しげに歓談の最中だ。






例え背を向けていたとしても、首座の様子は手に取るように感じられる。








ほのかに紅に染まった顔を延王に向ける。







うるんだ瞳で延王を見上げる。







気だるげな指先が延王の衣の端をとらえる。







その度に、焼けつくような熱が胸を焦がすのだ。
揶揄するような延王の瞳に暴かれずとも知っている。










この醜い炎の正体は、嫉妬。












呷るように酒を喉へと流し込めば、炎は一層勢いを増す。
どれほど流し込んでも、全く酔えぬのは何故だろう。
時が経つのが遅い――――

「…様? 冢宰様??」
そっとかけられた小声に振り向けば、そこには件の下官が控えていた。
告げられた内容は、今度は待ち望んでいたもの。
下官に下がるように申し付けて、玉座へと歩み寄れば延王の視線とぶつかった。
――とうとう堪忍袋の緒が切れたのか?
面白がるようなその瞳を逸らさぬように見据えたまま膝を付き礼を取る。
告げるのは、招かざる者の退場の合図。
「雁国より秋官長楊殿、お越しでございます」
一瞬呆気にとられたような表情の後、豪放な笑い声が響いた。
「随分早いな。何かしたのか?」
凰と青鳥、さらに使者までも使って通報を、などと素直に教えてやる義理はない。
「雁国の官吏は有能の誉れが高うございますから」
だが、それにしては随分と早い。恐らくあちらでも慶に当たりを付けていて、途中で
使者と出会ったということだろう。周到な対策が効を奏したということだ。
「ふん? まぁいいだろう。
 ではな、陽子。名残惜しいが、うるさい小姑が来たようだから帰るとしよう」
酔いを全く感じさせない動きで立ち上がったのは、さすが十二国一の剣客というべき
だろうか。そして、事態が上手く飲みこめていない様子の主上に笑いかけ首座を下りる。
その僅かの間に紅の髪を掬い取り口付けたのは、ほんの刹那の出来事。
そう、恐らく自分しか気付かぬ程の。いや、わざと見せつけたのだ。その視線は明らかに己へと向けられていたのだから。






延王が引き立てられて行った後もまた長かった。
主上が首を左右に向けるたびに、ふわふわと泳ぐ髪。
燃え盛る炎の色が目に付いて離れない。その向こうには延王の挑むような瞳。
己にしか見えぬ所有の刻印が髪に刻まれているかのような、そんな錯覚が脳裏を占める。
胸に宿る炎が理性を焼き尽くしていく――










宴が終るや否や、ほろ酔い加減の主上を湯殿へと連れ去った。
不思議そうな顔ではあるが抵抗がないのを良いことに、簪を外し、複雑に結い上げられた髪を解いていく。はらりはらりと髪の束が細い肩へと落ちる。既にどこがあの部分なのかは分からなくなっているが、指を止めることはしなかった。
「ちょっ…! 浩瀚!待て!!」
漸くの抗議の声を無視し、次は帯へと手を伸ばし固く結ばれた結び目をほどく。そのまま力任せに上衣を剥ぎ取った。あらわになった細い首はほのかに紅に染まり、先程まで延王を見上げていたあの目の色を思い起こさせた。炎が、大きくなる――衣を脱がせ、下帯もほどいていく。
「こ…う…かんっ…なんで…?」
我に返ったのは、か細い声のせいだった。そっと顔を覗きこめば、その瞳に浮かぶのは涙。
延王を見上げていたあの色は、どこにもない。あるのは、己に対する怯えと驚愕。
炎の勢いが急速に弱まっていく――胸の残り火を消すように頭を僅かに左右に振り、ゆるゆると息を吐き出す。
怒りも嫉妬も、醜い感情全てを吐き出すように。
平静の己へと戻るように。



じっと自分を見上げる碧の瞳に、そっと唇を寄せて涙を吸い取った。
「御髪を、洗って来て頂きたいのです」
「髪を? なんで??」
「お気づきでない様ですが、先程延王が口付けしてらしたのですよ」
「…それだけ?」
呆れたようなその声音に、今度は頬に口付ける。
「それだけで十分です。きれいに洗ってきてくださいね」
「…洗ってくれないの?」
返された答えに思わず瞳を見返しても、訝るように見上げているだけで。どうやらその言葉の指し示すものまでは考えていないらしい。
「おや。湯殿に招待して頂けるので?」
耳朶に息を吹き込むようにして囁けば、しばらくの後その意味に思い当たったのか、
みるみる頬が朱に染まっていった。
「っ!! ばかっ!! 絶っ対入ってくるなよっ!!」
怒鳴るように言い捨てると、顔を真っ赤に染めたまま扉の内へと駆け込んで行く。
そんな微笑ましい様子に、自然と苦笑が漏れてしまうのを止めることはできなかった。









2003.12.31 UP








◆月木水羽さまのお言葉より◆
めれーなさまのお宅で、イラストの後、陽子は…
1) だーっ!ウザい〜!!と、晴れ着やら飾りやらを剥ぎ取ってしまう。
2) 晴れ着やら飾りやらを剥ぎ取られてしまう。
というファイナルアンサーに答えて、掲示板に書き逃げさせていただいた
SSの書き直しVer.です。もとのは掲示板だから短くみじかく…と。
その結果、閣下は粘着質だの神経質だの粘菌体質(笑)だのという評価を
頂いてしまった模様。うふふv むしろ潔癖症かも??
しかし、閣下の一人称は難しい…。

めれーな様に(勝手に/笑)捧げますvv






月木水羽さまの「ファイナルアンサー」フルバージョン!!
2003年元旦配布イラストから派生した、
陽子主上脱ぎ脱がせ(笑)シチュの一つですvv。
私がひとりでウハウハだったという…^^;;。
また「プチ祭り」が発生するような企画を立てたいです〜vv。
しかし、返す返すも…閣下…怖っ;;

月木水羽さま、ありがとうございました!!vv

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