一時
浩瀚、と、抑揚のない声で少女が呟いたのは、内殿へ向かう道すがらであった。
長く入り組んだ回廊を進む間に、三人、二人…と女官が外れ、少女の後に随っているのは、今冢宰ひとり。
「…私に一時の余暇はあるか?」
常になく長い裳裾を引き摺った盛装の少女の背に、男は、は?と、声をかけた。
少女はゆるりと立ち止まり、豪奢な歩揺を揺らしながら頭を垂れた。
「…ごめん…眠いんだ…この場で寝そう…少しでいいから、仮眠させてくれ…」
ここ暫く、公式の行事や祭礼が立て続けに行われ、宮中の誰もが目まぐるしい日々を送っていた。そして、最終的な責務は、国主である陽子の両肩に重く圧し掛かる。
「ですから、予定をもう少し緩やかに組んだ方が宜しいのではと申し上げましたのに」
「うう…説教は景麒だけでたくさんだ」
適度にこなせる事案もあるだろうに、この少女は何もかも真面目に取り組んでしまう。
まだ若い王だからというだけでもなく、そういう性分なのであろうと、男はくつり微笑んだ。
「…仕方がありませんね。───こちらへ」
とりあえず、回廊を渡り切り、手近な小房に少女を導く。
どういう用途の房室であろうか、そこは広い金波宮に於いて、殆ど使われていない場所のようだった。それでも奚の掃除は行き届いており、床には一片の塵も見当たらないが、榻ひとつ置かれていない。
房室に入った途端、張り詰めた糸が切れたように、その場で崩れそうになる少女の両腕を辛うじて支えた男は、お待ちなさいと静止した。
「まさか、このまま床に転がるおつもりですか?」
「───」
休息が取れると安心したのか、眠気が頂点に達した少女の口からは、言葉にならない声が漏れるだけ。男は内心苦笑しながら、壁を背にして床に腰を下ろし、自らの膝をぽん、と叩いた。
「───?」
「膝を貸して差し上げます。ほら、こちらにいらっしゃい」
「だ…だめ───袍に化粧がつく…」
この期に及んで、そのようなことをお気になさるかと吹き出した男は、懐から手巾を取り出して膝に広げ、これで宜しいでしょう?と、少女に向かって微笑んだ。
一瞬、躊躇したものの、ふらふらと引き寄せられるように男の膝に腰掛けた少女は、捩子が切れたように、ことり、と凭れ、腕の中に納まった。…既に寝息を立てている。
忙しさ故に、長らく味わっていなかった、少女の匂いと、息遣い。
「…触るくらいは役得でしょう」
男はそう、呟いて、滑らかな頬を指でなぞり、その身体を愛おしげにきゅ、と、抱きしめた。
2003.9.9 了
…お詫びというか言い訳というかすいませんSSです…^^;;。
いやもう、8月16〜17日コミケ、23〜24日大阪、31日また東京という毎週移動は、思った以上に身体でろでろでしたTT。31日は往復夜行寝台で、睡眠時間だけ考えると、バッチリ寝てるはずなのに、何でこんなに魂が抜ける疲れ方をしたのか…(笑)。帰宅9月1日は出勤だったんですが、あまりの眠さに、昼休み、部屋に戻って仮眠してましたもん。で、その日の仕事が終わり、帰宅して風呂入って、コナン見たまでは覚えてるんですが(笑)、その後ついに沈没…。腹はぐーぐーなってるのに、起き上がる気力なし。頭の中で「そーか、人間、食欲より睡眠欲なんだな…」と、脳内へぇ〜ボタンを20回くらい押しながら、そのまま熟睡してました(笑)。
このお話は、その時の体験談が元になってます^^;。どうせ寝るなら閣下の膝枕でお休みしたいわんvv、という妄想を込めて(爆)。
…これ、書きながら「漫画で描いた方が楽かも」とか思ってました^^;。ただ今漫画脳なんです。
もしかしたら…描くかも描かないかも(どっちや?)。