純如
公務を終え、太師を訪ねた冢宰に、女御が恨みがましい目を向けた。
「おや、どうかしたのか」
その嫌味のない涼しげな笑みが極めて怪しいと、一部の人間はよく知っている。
「いえ、どうぞお進みください」
いつものことなので、案内などしない。が、浩瀚は動かない。
「延王にお会いしたか」
先に立ち去ることはできずに待っていた鈴は、大きく息を吐いた。
本日訪れていた延王に、浩瀚が先に会ったことは知っている。
やはり、先程の笑みは全て承知の上だったのだ。
「浩瀚さま、私を共犯扱いしましたでしょう」
男は喉の奥で笑う。
鈴は頬をふくらませた。
一国の冢宰ともあろうこの男が、自分をからかうのが楽しくて仕方ないらしいことは分かっている。だが、他国の王に目をつけられるようなことに巻き込まれては堪らない。
そんな鈴の様子に気付いた浩瀚は、笑いを収めて口を開いた。
「切ってしまった主上の長い髪をそのまま捨ててしまうのは忍びない、とつい申し上げてしまったのです。申し訳ございません。……そのように延王に申し上げたのでは?」
鈴が目を瞠る。
確かにその通りだが、浩瀚にまで伝わるはずがないのに。
「どうして……」
「そのくらいは想像がつく。鈴が本心から言って、そうと分からぬ方ではないからな。延王はご機嫌を直されただろう」
全く正しい。
景王の髪で作られた筆については喜ばれているようなので、延王はすぐに鈴の言葉に納得してくれたのだが、やはり押しつけられた感は否めない。
「浩瀚さまを冗談好きな方だと思わせることは成功しましたでしょうか」
嫌味っぽく言ってみても、浩瀚は笑みをもらす。
「しないだろうな。別にどちらでも構わないが」
「それが一番の目的だったのでは?」
不思議そうに首を傾げた鈴に、男は声を立てずに、しかし然も可笑しそうに笑った。
「それも良いな」
そう言い残して太師の元へと向かう。
女御は目を瞬かせて、冢宰の背を見送った。
2002.11.11 UP
◆おおわさまのお言葉より◆
・・・楽しみのための目的。最後の一点以外の全てが狙いかと。
意想外の反応は、今後の楽しみを増やすだけでしょうね。
・・・どうしよう、この浩瀚(嘆息)
…そりゃあ勿論、今後の活躍、大期待!!っスよ!!
うひゃひゃひゃ!!(コラコラ)