perfume of love
後悔とか、敗北感とか、身を裂くような切なさとかそんなものよりも
ただ甘い香りに酔う
とても、しあわせ
空が朝焼けに滲む前の暗い時間。
堂の中は耳鳴りのするような静けさにおかされていて。
小さな物音は吸い込まれるように消えていった。
しかし常人よりもはるかに優れ、眠りの中にあっても常に研ぎ澄まされた感覚を持つこの
男はその音を聞き逃すことはなく速やかにまどろみの中から意識を起こした。
そして瞬時にらしくもない後悔をする。
先ほどまで確かにあったはずの腕の中の温もりが消えてしまっていることに。
そのことに気が付いてしまったことに。
夜が明けるまでは、気が付かずにいたかった。
軽く自分を呪う。
簡単に寝なおすことが出来るほど男は眠りに執着する性質ではない。
況してや小さな絶望を味わった後では。
軽く頭を起こして何気なく辺りを見回した。
男の寝室はその身分につり合うように広く、調度類も華美ではないが質のよさが伺われる
造りのものばかりである。熱心な女官達によって掃除も行き届き整然としている。
しかし殺風景。
もともと贅を凝らし周囲を飾り立てることに一片の興味も示さない男だが、今はこの冷たい
までに整い完璧な空間に物足りなさを感じる。
不思議なものだ。
数刻前まで、あの紅い髪をした少女がここに居て、自分の腕の中におさまっていた時までは
この空間は酷く熱く、甘く、満たされたものだったのに。
なんだか騙されたような錯覚に陥る。
あれはもしかしたら自分の欲求が夢となって現れたものではなかったのかと。
最初から彼女はこの堂には訪れず、この腕に抱いたもの幻だったのではないか。
元々、自分の物にはなるはずのない愛しい娘。
彼女は慶の女王なのだから。
民の手から王を奪える可くもない。
彼女は民を愛する。一人でも失わないように慈しみ、そのために幾多の試練を抱え乗り越
えてゆく。
彼女から民を奪うことは出来ない。民への目を自分だけに向けさせることは出来ない。
分かっていたいたはずのことなのに、どうやら自分は見果てぬ夢を求めてしまったらしい。
その証拠に、確かにあったはずの彼女の面影はこの堂のどこにもない。
たった一筋も髪の毛さえも残さずに彼女は消えてしまったのだから。
自分に言いようのない後味の悪さだけを残して。
少々早いが本格的に起きてしまおうと男は身を起こした。掛かっていた衾を払いのける。
その刹那。
男は愛しい彼女が自分に残した物に気が付き、思わず頬を緩めてしまった。
どうやら彼女がこの身に残したのは切なさだけではなかったようだ。
再び寝台に身を沈めた。
あどけない顔をしながら同時に女である彼女の残り香に包まれる。
まいった。と思う。
まさか自分があの少女にこんなに惑わされるとは。
けれども無邪気な彼女はきっと思いもよらなかったのだろう。
愛用の香が移った布に男が切なくなるなんて。
こんなに迷って苦しむなんて。
もう少し、目を瞑り朝を待とう。
男は衾を引き寄せる。
もしかしたら彼女は今宵だけで終わらせるために夜が明ける前に帰ってしまったのかもし
れない。
男に一夜の夢であったと
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