Present for you






正月の王宮は忙しい。無論それは慶だけに限らず、この常世のどこの国とて同じ事。新年を迎える祭事から始まり、主だった国官・地方官からの新年の挨拶を受け、夜には宴が開かれる。まさに休む暇も無い忙しさだ。
だが、まだそんな喧騒を迎える前。日付が変わるのに合わせて行われる新年を言祝ぐ神事が終った後、僅かの時間を使ってささやかな席が設けられた。
参加するのは王をはじめ台輔・冢宰などのごくごく近しい者だけ。
ささやかながらもどこか華やかなのは、この後のこともあり参加者のほとんどが礼装を 身に付けているからであろう。


主賓である女王は夜を徹して行われた神事のせいですっかり疲れきってしまった様子。 目の前に置かれた料理にも手をつけず、しどけなく脇息にもたれかかり、物憂げに頬杖 をついている。


「主上! そのような格好をなされては折角のお化粧が!!」
「おや、簪が曲がっていらっしゃいますよ。直してさしあげましょう」
僅かに下段、陽子を挟んで左右に座る台輔と冢宰の間には熱い火花が散っていた。


禁軍左軍将軍は大僕を相手に歓談中。と思いきや、
「…を〜い!聞いちぇりゅのきゃ〜?」
とすっかり呂律が回っていない。対する大僕も頬を真っ赤に染めて虚ろな目でどこか 明後日のほうを見つめている。それもそのはず、二人の前には空になった酒瓶が 両手の指では数え切れないほど転がっているのだから。


「これはお砂糖と…檸檬かしら」
「あら、柚子じゃない? 今度、私達も作ってみましょうよ」
女御と女史は料理の批評に余念がない。


太師は膝に乗せた小童にあれやこれやと料理を取り分けてやるのだが、小童のほうは 眠気をこらえきれないのか、時折うとうとと左右に揺れている様子。
「桂桂、眠かったら部屋に戻っておりなさい」
「ううん。大丈夫」
本当は、こんなに夜遅くまで起きていたことなどないためとても眠いのだが、彼にとって 家族とも言える皆がこうやって勢ぞろいしていることなど滅多にない事で。
なので、必死に眠い目をこすりながら頑張っているのだ。

そんな様子をなんとなく眺めていた陽子がふと思いついたように顔を上げて、
「桂桂、こっちへおいで」
と手招いた。おぼつかない足取りで歩み寄った桂桂に、あでやかな化粧を施した美しい女王が にっこりと笑って手渡したのは、紙でできた色鮮やかな小さな袋。
「はい。お年玉」
「えっ?もらっていいの??」
その袋の中には、桂桂が普段もらうお小遣いの倍くらいのお金が入っていた。
「もちろん。無駄使いしちゃだめだよ」
「はーい。ありがとっ」
先程までの眠気はどこに行ったのか、満面の笑顔で飛び跳ねる様にして席に戻る桂桂に 鈴と祥瓊が声をかける。
「桂桂、良かったわね。何に使うの?」
「今度一緒に買い物に行きましょうね」
「うんっ」
その頃の桂桂の頭の中には、欲しかった玩具や美味しそうなお菓子のことなどが次々と 浮かんでは消えていた。






十日後。新年の慌ただしさがようやく消え、普段通りの落ち着きを取り戻した王宮。 正寝の陽子の私室では、陽子と鈴、祥瓊がのんびりと三時のお茶を楽しんでいた。
「ねぇ、入っていい?」
扉からひょっこりと頭だけを覗かせた桂桂に、もちろんと陽子が手招きをする。
早速お茶とお菓子の準備をするために、祥瓊が部屋を出て行った。
うんしょと声を上げて彼には少し高すぎる椅子によじ登ると、陽子のほうへ小さな包みを差し出す
「ん? 私に??」
きれいな包装がほどこされたその包みを開けてみれば、半透明の翠の石がついた金の指輪が転がり出てきた。
「あのね、六太に蓬莱では大好きな人に指輪を贈るって聞いたの。だから」
「それで私に? ありがとう、桂桂」
意外な贈り物に驚きながらも、桂桂のふわふわの髪の毛をそっと撫でれば、くすぐったそうにふふふと笑う。
「してみて?」
細い金の指輪を壊してしまわないように気を付けながら、人差し指、中指と順に試してみる。 その様子を息を詰めて見守っていた桂桂は、陽子の薬指にそれがぴったりとはまったのを見て、 満面の笑みを浮かべた。
「ぴったり? よかった〜! 六太に薬指じゃなきゃだめって言われてたんだけど、 陽子と買い物に行くわけいかないし、心配だったの」
「ほんと、ありがとね」
この前みたいにきれいに化粧をしているわけではないけれど、それでもとってもきれいな陽子に ぎゅっと抱き締められて桂桂は照れたように笑って、
「そんだけっ。じゃ、またねっ」
部屋を飛び出して行ってしまった。


そんな様子を微笑みながら見守っていると、お盆を抱えた祥瓊が戻ってきた。
「あら、桂桂は行っちゃったの? もぅ。  なぁにそれ? かわいいじゃない」
目敏く陽子の指に輝く指輪を見つけた祥瓊に、陽子が桂桂にもらったと答える。
「ふ〜ん。桂桂ったら意外とやるわね」
「あら、すっごく大変だったのよ。それ選ぶの。  堯天中のお店を見て廻るくらいの勢いだったんだから」
「でも、これってそれなりの値段じゃない? 鈴のお金?」
そういえば、と陽子も首を傾げて問うように鈴を見る。
「ううん。桂桂のお年玉。陽子と、私や祥瓊、虎嘯や遠甫、他にもた〜くさんのひとから お年玉もらったのよ。 ほら、桂桂は金波宮で唯一の子どもでしょ? だからみんな甘くって。 あの台輔でさえも、あげたのよ」
台輔でさえも、の所に力を込めて言われた言葉に三人は顔を見合わせて笑い合ったのだった。



その頃の桂桂。
――やったよ、六太。薬指にはめてくれた。陽子が僕と結婚してくれるって。
無邪気に空を見上げながら思うのは、十数年後の自分の未来の姿。
もちろん隣には美しく微笑む陽子が寄り添うように立っている。






また数日後。 その長く美しい指にはめられた指輪をとても大事そうに扱う麗しの女王の姿を横目に、 指輪の贈り主をめぐって熾烈な神経戦が慶国のみならず他国まで巻き込んで勃発したとは、 当の女王さまは全く知らぬ話。









2003.12.31 UP








月木水羽さまんちの2003年;お年賀SS^^/
元旦の金波宮の、ほのぼのとした暖かさが感じられて、
桂桂ならずとも幸せになれそうですよねv。
何気ない日常と、桂桂の「夢」と、その後のひと騒動(予想/笑)。
しかし…「台輔でさえ」(笑)お年玉をあげてしまいたくなる、
桂桂マジック恐るべき!(違)

月木水羽さま、ありがとうございました!!vv

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