悋気

 

 

 

 関弓の街を、ふらりと歩くのが、好きだった。
 雑踏に響く明るい声、声。人は皆、活気に満ち溢れ、自国の安定を謳歌している。
 この国は、慶の指針だ。
 今は貧しく、妖魔に荒らされた痕が痛々しくとも、この国が、私の目指す標。
 だから、延王に、市(いち)を覗いてみないかと誘われた時には、喜んで二つ返事をした。
 でも。
 …………三度までは適当な相槌も打てたが、流石に四度続くと、軽く受け流すことが出来なくなってしまった。















「あらあ!旦那!」
 人込みと喧騒の中、質素な身なりをしていても目立つ体躯の男に向けて、派手な襦裙を纏った女たちが嬌声を浴びせた。
「最近お見限りじゃないか。河岸を変えたのかと思ったよ」
「ねぇ、またうちへ寄っておくれよ。旦那くらい豪儀な遊び方をする男なんざ、中々いないからねぇ」
「そう……この間の続きを…さ」
「やだ!姐さん、ずるいよ」
 男にしな垂れかかる女もいれば、腕に絡みつく女もいる。当の男は、邪険にするでもなく、豪快に笑って、またな、と答える。
「…おや、連れのお人は…旦那の弟さん?」
 ふと、視線が私に集まった。意味ありげな含み笑いを浮かべる女たち。
「可愛いわねぇ、まだ正丁じゃないんでしょ」
「こんな兄貴に染まっちゃだめだよ、坊や」
 くすくすと笑う女たちに、私は…。
「……よ…!?」
 無言で踵を返す。
 私を呼びとめる慌てた声から、足早に身を離した。























「……おい!陽子!」
 撒いたと思ったのは、ほんの数歩。一里も進まないうちに追いつかれてしまったことが口惜しい。振りきった腕を、力強く掴まれた。
「どうした!? 何を怒っている?」
 怪訝そうに、私の顔を覗き込む男。
「怒ってなんかいません」
 実際、怒ってなどいない。自分が放つ声色も、抑揚のないものだったから。
「…では、何故急に逃げた?」
「逃げてなんか…」
 男は、ふと、顔を緩めた。
「妬いているのか?」
「や!妬いてなんかいませんっ!」
 両腕を掴んだまま離さない男を、思いきり睨みつける。
「あの人たち…私のことを、お、弟だなんて」
「そりゃあ、そんな風体をしていては、妹だとは思ってくれんだろう」
 うそだ。
 あの女たちは、私を女だと見破っていた。
 その上での、あの科白。まるで私など、女として眼中にないかのような。
 ……何故だかそんな気がしてならず、それを見抜けない男の鈍感さにも腹が立った。
「あなたも、否定しなかったし…」
「まさか、慶の国主だと名乗る訳にもいくまい」
「何度も何度も、声をかけられる度にへらへらして…あなたは一体、何人の女と係わりがあるんですかっ!?」
 思わず、力任せに言い放った自分の科白で、はっと我に返る。
「…私は…妬いていたのか?」
 呆然と立ち竦む私を、くつくつと笑いながら、男は強く抱き締めた。
 大柄な男に抱かれる時、私の足は地上から心持ち浮き上がる。けれど決して揺らぐことのない、確固たる力。
「妬く時ぐらいは、甘えてくれ。でないと、俺がいる甲斐がない」






 ----------決して、視察の為だけに、雁へ来た訳じゃない。






 まるで耳朶を舐めるように、優しく囁く男に、私は腕の中で、ただ、蕩けた。









2002.9.7 了








 お題「モテモテな尚隆にヤキモチ焼いちゃう陽子」でしたvv。
「ちゅう」なし(笑)の、爽やか(…え?)な二人♪

 「ヤキモチを焼く陽子」というのが、一瞬思い浮かばなくて、
「(玄英宮で書類と三人組に)モテモテの尚隆に
(「せっかく遊びにきたのにお忙しいようだから帰ります」的に)
ヤキモチ焼いちゃう陽子」(←ギャクじゃん^_^;)にしようかと思ったのですが、
あまりにあまりなので却下(笑)。
導入部分がどうも上手く書けなくて、しばらく停滞してました…とほほほ。
こんなんでよろしかったでしょうか…(ドキドキ)。
そめ子さま、700HITありがとうございました!vv これからもよろしくお願い致しますvv

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