|
*ぼくの左肩に君のこうべが、 僕がこうやってあの場所に行くのは、随分久しぶりだ・・・いや、もしかしたら久しぶりどころじゃないかも知れない。 3ヶ月・・・? あ、もしかしたらもっとかも。 刑事と云う年がら年中殆ど休みのない仕事をしていれば、それは仕方ないことと言えばそれまでなのだが、僕はその仕事が好きだし、その仕事をしているお陰で彼女にも出会うことが出来たのだから、今考えてみるとこの仕事をやっててよかったなぁ、とつくづく思う。 そりゃあ、人の酷い部分が一番見えてしまう仕事でもある訳だから、勿論辛い事もあるけれど。でも、それ以上に嬉しいことも沢山あって。 ゆっくりと歩を進めながらも仕事のことをついつい考えてしまう自分に、思わず苦笑いが漏れる(横に彼女がいれば、間違いなく笑われていただろう)。 ややあって目の前に『米花幼稚園』と書かれた門が見え、そこから足を中に踏み入れると子ども達の賑やかな声がたくさん聞こえてきた。 おもちゃの取り合いでもしているのか、中には誰かの名前を叫んでいる声や泣き声が聞こえてくるが、それもまた平和な証拠。 玄関には入ったものの、久し振り過ぎてどうすればいいのか、とその場で辺りをきょろきょろと見回していると、先生らしい一人の女の人が声を掛けて来た。 顔に浮かんでいる柔らかな笑みが、優しげな雰囲気がいかにも幼稚園の先生らしい。 「お迎えですか?」 「あ、はい。高木ですけど・・・」 その先生はちょっとお待ち下さいね、と相変わらず笑みを浮かべながら僕に言うと、並んでいるいくつかの部屋のうちのひとつの中へと入っていった。 その間も、辺りではずっと子ども達の声が響いている。 園庭に視線を向けてみると、赤や黄色、ピンクといった色とりどりの帽子をかぶった子ども達が元気良く走り回っていて。 滑り台に反対側から駆け上ってる子や、砂場で三人がかりで山を作ってる子。おにごっこでもしているのか、他の子の後を追いかけてる子。ブランコの順番を待っている子。 そんな場面を見ているうちに、何となく心がふんわりと温かくなってきた。 少しばかり大袈裟かもしれないけれど、こんな風に元気に遊ぶ子ども達を守っていける仕事を自分はしているんだと思うと、明日からも頑張ろうと思える。 「おとしゃん!」 聞こえてきた声に目線を前方へと戻すと、そこには満面の笑みを浮かべた希の姿。 片手で黄色い帽子を持ち、もう片方の手では紺色の通園鞄を引きずりながら懸命に此方に走ってくる。 「おかえり、今日もいっぱい遊んだ?」 足元に抱きついてくる希と屈んで目線を合わせながら尋ねると、嬉しそうにうん、と大きく頷いた。 まだまだ軽い身体抱き上げれば、これまた嬉しそうに声を上げて腕を首に回してくる。 この笑顔が、僕は一番好きだ。 担任の先生から貰った連絡ノートを手に、腕には希を抱っこしたまま帰り道を、来たときと同じ様にまたゆっくりと歩く。 「おとーしゃんがくるの、しらなかった!」 「今日はお仕事が早く終わったんだ」 大きな丸い瞳をキラキラさせてこんなに喜んでもらえると、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。 ここ最近忙しかったから、こうやって直接会って話すのは3日ぶりぐらい(声だけは、もっと頻繁に電話で聞いてるんだけど)。 話したいことがたくさんあって、聞いて欲しくて堪らないんだろう。 楽しそうに足をぷらぷらさせながら今日あった事や、友達のことなどを次から次に教えてくれる。 それを聞いているだけで、本当に幸せで。 うんうん、なんて相槌をうちながらも無意識のうちに笑みが漏れる。 そんなやり取りを繰り返しているうちに、それまで殆どノンストップで聞こえていた声が段々と聞こえなくなり、やがてぴたりと止まった。 「・・・?」 出来るだけそっと顔を覗いてみると、僕の肩に頭を乗せたまま無邪気な寝顔を浮かべて小さく寝息を立てている。 大好きなお友達や優しい先生といっぱい遊んで、いっぱい走って、いっぱい話して、疲れたんだろう。 その寝顔が、今は家で晩ご飯を作って僕達の帰りを待っているであろう彼女のそれと、重なる。 思わず笑みを零しながら、小さな頭をそっと撫でた。 ――帰ったら、またいっぱいお話してね。 オレンジ掛かった夕日が、二人の影を大きく伸ばしていた。 fin. /20110412 再録 お父さんのお迎え。 ちなみに私はお母さんの自転車隊だったのでこんな経験はありません(笑)。 |