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アームストロング姉弟の過去を捏造しまくってます← ご注意ください。 *青空と薔薇と涙と貴女 昔から、強い人だった。…いや、もしかしたら”常に強くあり続けようとする人”だったのかも、知れない(過去形にすると語弊があるかも知れないが)。 自分がまだ小さかった頃――それこそ四歳や五歳の頃―は長女であり、自分が心から信頼する何人かの人物のひとりだった姉の後ろを飽きもせずに四六時中付いていっていた時があった。 勿論彼女が学校に行っている間は無理だったけれど、家にいる時は大体後ろを付いて回っていたのだ。 基本ひとりで行動することを好む彼女にしてみれば鬱陶しいこことこの上なかったのであろう、少しは離れてくれだのキャスリンと遊んでやれだの何度も何度も言われていたがそのうち諦めたらしく、自分が後ろにくっついていても何も言わなくなっていた。 まだ幼い自分にしてみれば、兄弟の中で一番年が離れている上に学校での成績も抜群、運動能力にも長けている彼女は憧れの的で。 性別は違うものの(その時はまだ、自分が彼女の身長を抜かす日が来るだなんて思ってもいなかった。―まぁそれも幼さ故、だ)、常に前を見つめ、何事に対しても真正面から立ち向かうその姿勢が好きだった。 だから、ずっと姉は強い人なのだと思っていた。 ―…けれど、その考えが実は少し違っていたことに気付くまで、そんなに多くの時間は掛からなかった。 ある日のことだ。 お気に入りの本を読んでいるうちに睡魔に襲われ、部屋で転寝してしまっていた自分は何処からか聞こえてくる声で現実に引き戻された。 そしてその声が姉であるオリヴィエのものであることに気がついたのは、それから数秒後。 もう学校から帰ってきたのか、といつもそうしていたように部屋から飛び出して階段を駆け下り、そして彼女の後ろ――最早定位置になっていた―にくっつこうとしていたのだが、それは叶わなかった。 階段を下りきった自分のすぐ目の前を、彼女が走り去って行ってしまったから。 ほんの、本当に一瞬のことだったけれど目の前を掠めて行ったオリヴィエの自分と同じ色をした瞳が涙で潤んでいることに気が付き、慌ててその後ろ姿を追った。 後ろからは父親が何かを叫んでいる声が聞こえていたが、そんなことはどうだってよかった(自分の世話をしてくれているメイドが引き止めようとして投げ掛けてきた声もまた、然り)。 足の速いオリヴィエの後ろ姿を、広い屋敷内で見失わずに追うことは、まだ小さな自分にとっては大変なことだった(第一、運動神経抜群だった彼女に対して自分は運動が苦手なほうだったし)。 けれど一生懸命目を凝らし、足を動かし、風に合わせてさらりと揺れる金髪を追い続けた。 走って走って、漸くいつもの、彼女の後ろの位置に立ったのは庭にある薔薇園の奥だった。 隅から隅まで手入れの行き届いた薔薇の花たちは、まるで間に入ってきた自分達を歓迎するかのように柔らかな香りで包み込んでいく。 膝に手を付いて必死に酸素を取り入れる自分の頬を、温かな撫でては通り過ぎ、それが心地よくてわずかに瞳を細め……そして、顔を上げた。 「…姉上、」 息を切らせながら――こんなに走ったのは、生まれて初めてかもしれない―、それでも何とか言葉を紡ぎ出す。 少し声が震えたのは、目の前で小さく震える彼女の肩にリンクしたからだろうか。 しかしいつも真っ直ぐに前を見つめ続ける彼女の瞳は、こちらを向いてはくれなかった。 ただ一言、部屋に戻れ、とだけ言うと頭が僅かにしたへと下げられる。恐らく、視線が足元へと移されたのだろう。 戻れと言われたものの、彼女をひとりにすることはどうしてもできずもう少しだけ、と一歩足を踏み出した自分の目がとらえたのは、込み上げてくる何かに耐えるようにぎゅっと握り締められた細い手と、…白い頬を流れる一筋の涙だった。 そしてその時知ったのだ。 自分が強い人だと思っていた姉は、いつだって必死に強くあり続けようとしていたのだと。 いつだって真っ直ぐ前を見つめていたのは、時にどうしても弱くなってしまう自分自身を、強く保ち続けるためだったのだと。 彼女の流した一筋の涙を、心の何処かで嘘だと思ってしまいたかった自分もいたけれど、直ぐにそれは消えていった。 だって、強い姿も弱い姿も、全部全部、自分の愛する姉には違いないから。 だから、だからこそ”強くあり続けようとする”彼女を、応援しようと思った。心の奥から、本当に。 「ねぇ、姉上……笑って?」 笑ったら、強い貴女に戻れるよ、きっときっと。 あれから二十年ほどの月日が経ち、あの頃は彼女の腰元の少し上くらいまでしかなかった身長は伸び、いつの間にか憧れであったその人のそれを追い越していった。 けれど、あの日決めた決意は今だって変わっていない。 離れて暮らしてはいるけれど、どんな状況にあっても彼女を応援したいと言うのは本心だ。 …それに。 『……笑って?』 あの綺麗な笑顔で、笑って欲しいと思う気持ちだって、全く変わらない。 ―いつか貴女が目的を果たしたその日に、最高の笑顔がみれることを、心から信じて。 ふと見上げた空は、あの日の空に似ていた。 fin. |