立命館大学能楽部 - 能・狂言のサークル

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基本データ
作者 世阿弥
曲柄 二番目(修羅物)
構成 一場
季節 秋
場所 京都・清経邸
平清経についての記述 「平家物語 巻八」大宰府落
「源平盛衰記 巻三十三」清経海に入る事

登場人物
シテ 平清経の霊
ツレ 清経の妻
ワキ 淡津三郎

あらすじ

平重盛の三男、平清経は平家の前途に絶望して、豊前の国(福岡県)柳ヶ浦で入水する。清経の家臣である淡津三郎は形見の黒髪を清経の妻に届けるために戻ってくる。入水の話を聞いた妻は、せめて討死にするか病死ならばともかく、自分を残して自殺するとはあんまりだと嘆く。そして形見の黒髪を見るに忍びず、涙ながらに床に就く。夜半を過ぎ、まどろむ妻の前に清経の亡霊が現れる。妻は夫の姿を見ることができ嬉しく思うが、何故生きて帰ってこなかったと恨み悲しむ。清経は、都を落ちた平家一門が筑紫での戦いにも敗れ願をかけた宇佐八幡宮からも見放されたいきさつを語り、平家と我が身の運命に絶望し、死のうと思い、船中で笛を吹き、今様を謡って入水したことを話す。そして死後、修羅道に落ちた苦しみを見せ、しかし入水の時に唱えた念仏の功徳によって成仏できたことを述べ、妻の前から姿を消す。

みどころ

通常の修羅物とは違った点が清経にはいくつか見られます。

・前場と後場がない
『シテが化身で旅僧の前に現れ、後半で正体を現して修羅道の苦しみを救ってもらう』のが通常の修羅物の構成です。『例: 屋島、敦盛』

・シテが自力で成仏する。
清経は海に飛び込むときに自分で唱えた念仏の功力で成仏します。(普通は旅僧などに弔ってもらって成仏します。)

一場であるという点が通常のものと異なることで、前場と後場の境の緊張感はないものの、秋という季節に合ったしっとりとした雰囲気が持続されているように思います。(キリは別ですが)

シテが自力で成仏する、というのは舞台の都合上でしょうか?確かに奥さんの寝室に僧がいたらおかしな話ですし、だからといって奥さんが夫婦喧嘩の後にお経を唱えてくれるかというと多分唱えてくれないだろうし唱えてくれても功徳はなさそうです。しかし、それは他の修羅物ののテーマの違いから来るものではないでしょうか?「清経」は修羅物の中でも最も幽玄がかった能と言われています。この能で世阿弥が最も表現したかったものは「修羅道の苦しみ」でも、「生前の武功の華々しさ」でもなくて(清経に武功などほぼ皆無です)若くして自ら海に飛び込んで死んでしまった青年武将の淋しい生き方やまだ若くして未亡人になってしまった妻の無念さ(「約束」を違えた夫に対しての)などの感情ではないかなあと私は思います。そしてその「感情」は決して明るいものではないため、秋という季節、若い未亡人がぽつんと一人でいる寝室、という舞台が必要であり、そのために、旅僧などの「弔う者」の姿は消されたのではないでしょうか。本当の答えは分からないですが私はそう考えます。

小書き「恋之音取(こいのねとり)」

多くの能に「小書き」という通常とは違った演出が存在します。清経も例外ではなく、「恋之音取」という小書きがあります。どういうものかというと、地謡の「手向け返して…枕や恋を知らすらん」のところで笛方が少し前に出て幕の方に向かい「音取」という特別の譜を吹きます。するとその笛の音に誘われるようにして清経の亡霊が幕から出て、笛が止めば止まり、吹き出すと歩き出す…という動作をしながら舞台に上がるという演出です。笛を愛した清経らしい演出ですね。

平家の公達

「玉葉」という書物に清経についての記述があります。清経は「何でも考え込んでしまう人」だったそうです。しかも悪い方に。そんな清経だからこそ平家の未来に絶望するのも早かったのだなあと思います。でも奥さんとの約束を破ったのはよくないと思われますが…。そんな清経は平家一門の中ではあまり目立っていなかったようです。平家物語などにも清経の記述はほとんどありません。平家物語で目立った記述が見られるのは「薩摩守」、忠度、清経の父親の重盛と兄の惟盛(美形)や「見るべきほどのことは見つ」の台詞で有名な知盛、平家一門の猛将といわれた「能登守」教経です。これらの人たちは、忠度は能「忠度」、「俊成忠度」、知盛は「船弁慶」にシテとして登場し、教経は能「屋島」の源義経の台詞の中に登場します。このように、平家物語から題材を取った能は上記のもの以外にも沢山あります。人の生を止めることを生業とした武士でありながらも、生きることを楽しむためにある和歌や楽器を愛していたという平家の人たちの生き方が、世阿弥を始めとした能役者にとって創作意欲を刺激されるものだった思います。


参考文献
能の平家物語 秦恒平 朝日ソノラマ 1999

執筆: 2003年度入部 A. M. 2004年度部内発表会紫陽会に向けた部内研究冊子より

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