いつもと違う、いつもの場所







        何故か続いたSS。リト君まじ男前。 『いつもと違う、いつもの場所』 written by 七夜彼方






 結局、紆余曲折あって付き合うことになった俺とヤミは、初のデートに来ていた。
 とは言え、特に行く先を決めていなかったので、商店街に着くと同時に話し合いになる。

 「ヤミはどっか行きたいところあるか?」

 「ありません」

 ……にべもない答えだ。どうしようか……。

 「じゃあ……取り敢えず何か食べるか?」

 「…………そうですね」

 相変わらず口数が少ないなあ。

 「もしかして後悔してる?」

 「? 何をですか?」

 少しだけ、不安を抱えながら聞いてみる。

 「いや、やっぱ俺と付き合うの止めようと思い直してるとか、さ」

 「そっ……」

 一瞬身を乗り出すようにした後、顔を赤くして元に戻る。

 「そんな事はt……ありません。私は元々、あまり喋らないので」

 「そっか。それじゃあ……」

 本人の確認も取れたし、折角のデートだ。出来ればヤミを喜ばせたい。その為には何処に行くべきか……。






 という訳で、最初にやってきたのは服屋だった。

 「ヤミはこういう所には?」

 「来たことはありません。私は仕事着と美柑のお下がりがあれば十分だったので……」

 興味深げに店内を見て回るヤミから少し離れて、女性の店員さんに話しかける。

 「あの、すみません。あの子に似合う服を見繕ってくれますか?」

 「畏まりました。あら、可愛い子ですね〜。彼女さんですか?」

 「はい……と言っても、付き合い始めたばかりなんですけど」

 「まるでお人形さんみたいですね〜」

 「そうなんです。自慢の彼女ですよ」







 /yami

 (……どうやら聞こえないと思われているようです。
 結城リト……いえ、り、リトは元暗殺者の五感を侮っているのでしょうか?
 先ほどから恥ずかしいセリフが次々と本人の耳に届いているのですが。
 何にせよ、今きっと私は酷い顔をしているので、もう少し遠くに行って時間を稼ぐことにします。
 とは言っても、あくまで会話からは目を……ではなく、耳を離しませんが。
 監視、そう監視です。リトがあの店員に何か…えっちぃ事を起こさないように監視しているのです。)


 そんな言い訳を考えながらも、聞こえてくる自分のノロケ話にますます顔を赤くしている事に、彼女は気付いていなかった。







 /rito

 彼女自慢もいい加減にネタが尽きた所で、店員さんはヤミを連れて去っていった。

 「さて……どうなるかな」

 正直な所、今まで見たヤミは殆ど仕事着(らしい)だった(又は裸)ので、他の服装が想像できない。

 5分ほどすると、店員さんが出てきた。

 「取り敢えず、一着目の着付けと説明は終わりましたので、後はお二人でどうぞ〜」

 鼻歌を歌いながら去っていく。可愛い子を着付けるっていうのは楽しいものなのか?

 「リ……リト……?」

 カーテンの向こう側から、どこか心細い声が聞こえる。

 「その……この服は少し……」

 「少し?」

 「…………えっちぃです」

 瞬間、カーテンを開いて現れたのは……真紅のチャイナ服に身を包んだ、ヤミだった。





 「……………………」

 驚きで声も出ないほど、金髪美少女のチャイナ服、という不思議な光景は衝撃的だった。
 そして……恐らく、ヤミの言う『えっちぃ』部分、スリットは深く、腰に届きそうになっている。

 「ど、どうでしょうか……? やっぱり私には、こういう派手な服は……」

 「可愛い、な」

 意図せずとも、素直な、素直すぎる感想が口からこぼれ出た。

 「上手く言えなくて悪いけど……似合ってるよ、凄く」

 「………………っ!」

 泳がせていた目線が俺と合った途端、ヤミはカーテンの中に閉じこもってしまった。

 「……ありがとう、ございます」

 照れた声で小さく呟くのが聞こえた後、また衣擦れの音が鳴り始めた。

 「ふう…………」

 幾らなんでも今のは無いだろう、俺。
 これからも同じことが続くようじゃ、いつ愛想尽かされるかわからない。感想くらいまともに言えないでどうする。

 「つっても……見蕩れちまったんだよなあ……」

 あ、音が止まった。聞こえてたらしい……カーテン一枚じゃ当たり前か。
 兎に角、次にヤミが出てきたら今度こそコメントしないといけないな。




 そんな覚悟をした俺を待っていたのは、更なる驚愕でしかなかった。

 「んな…………!?」

 試着室から現れたヤミは……今度は眩く輝く白いドレスを着ていた。
 『闇』と呼ばれるほどの黒のイメージと真反対のカラーを纏うヤミは、可愛い、というより美しい。

 「……綺麗だ」

 それでも、何とか心に浮かんだ言葉を搾り出す。

 「何て言うか……清楚な感じがするよ。お嬢様みたいだ」

 「私も……そう思います」

 また視線が合わさって……今度は二人とも小さく笑ってしまった。

 「まだ試着はある?」

 「はい……20ほど」

 20か。そりゃ大変だ……なんて言いながら、俺はヤミの笑顔を見て、つられて笑ってしまっていた。






 結局、残っていた20着の半分はまともな私服だった。もう半分はメイドだったり巫女服だったりしたが。
 もう二度とあの店員には話しかけまいと思いつつ、店を出たときには、ヤミの手には紙袋がしっかり握られていた。

 「また今度、私服でデートしような」

 「…………はい」

 赤い顔を隠すように袋に顔を埋めるヤミはとても可愛かった。






 途中でトイレ休憩ということでコンビニに寄ることになった。

 「取り敢えず、適当にウロウロしててくれるか?」

 という指示に従って店内を見回っていたときに、ソレは彼女の視界に飛び込んできた。

 「……っ!? コレ、は……」

 恐る恐る手を伸ばし、中身を確認する。
 誰もその行為を留めようとしないのは、彼女が発する殺気ゆえか。

 「お待たせ……って、ヤミ?」

 「えっちぃのは……っ!」

 変質していく彼女の体の向こう側に見えたのは……簡単に言えばエロ雑誌だった。

 「いや待て! それ商品だから!」

 他に方法も思い浮かばず、無意味と思いながらも後ろからヤミを羽交い絞めにする。

 「きら…い……です」

 意外にも効果があったのか動きが止まり……恥ずかしさのあまりか、そのまま気を失ってしまった。






 「ん……」

 「気がついた?」

 ヤミは薄く目を開けて……現状を理解した途端、また目を回して真っ赤になった。

 「これは、その、ひ、膝枕……ですか?」

 「ん、ああ……嫌だったかな?」

 「……………………」

 答えの代わりに、太ももにポスッと感触がきた。

 「にしても……ヤミは本当、そういうものに免疫ないよなあ」

 「……あなたはあるのですか?」

 「いや、そう言われると辛いんだけど……」

 あれだけ色々あったけど、耐性が付いたかといえば否だ。

 「それでも、ヤミよりは詳しい……っていうと変だけど、まあ俺も男だしね」

 と、冗談のつもりで言ったのだけど、ヤミは何故か恨めしげに睨んでいたので、慌てて弁明する。

 「いや、勿論ヤミの以外は興味ないけどなっ?」

 「…………私のには、あるんですか?」

 しまった、あんまり弁解になってない!

 「いや! そりゃ無いと言ったら嘘になるけど……」

 「…………私に。わたしの、体に……」

 ……喋れば喋るほど墓穴を掘りそうだったから、それ以上は何も言わないことにした。






 まあ、どうせ俺のことだから何かしらあるだろうなあ、とは思っていたけど。その後、

 「あ! リト君はっけーん!」

 のルンに始まり、下校中の古手川、天条院先輩など、色々な人に出会っては……まあ、色々と災難だった。

 「……………………」

 横からの視線が非常に痛い。

 「あなたは……」

 「?」

 「その……大きい人のほうが……いいの、ですか……」

 「大きいって、何が?」

 「……………………」

 ヤミはちょっと泣きそうな顔で、自分の体を見下ろして……

 「……っていやいや! 何でそうなる!?」

 突然すぎる質問に思わず聞き返してしまう。

 「先ほどのユイやDr.ミカド、プリンセスも……皆、私より……」

 そこで、俯いていた顔をキッと上げて、決意に満ちた目を向けてくる。

 「その、トランスを使えば私もっ……!」

 「いやいや! ちょっと落ち着けって!!」

 いきなりそんな決意されても! そもそも誤解だし!

 「ま、待て。取り敢えず冷静になろう、ヤミ」

 「……………………」

 「その……だな」

 さて、目の前で顔を真っ赤にして涙目になっているヤミに、どう説明したものか。
 適当に説明しても納得しそうにないし……。俺も恥ずかしいけど、はっきり言うしかないか。

 「……何で俺がヤミを選んだのか、考えてくれないかな」

 「……………………」

 「俺はさ……その、胸の大きさとかで好きな人を選んだりしない」

 俺も恥ずかしいけど、真っ向から闇を見つめて、口にする。

 「……そのままのヤミが一番可愛いと思う」

 「……………………」

 ああ、頬が熱くなってくるのが分かる。でも、同時にヤミの頬も赤くなっていっていて……。

 「今のままのヤミが……俺は一番好きだよ」

 「…………っ!」

 ヤミの顔がボンッと音を立てて赤くなる。

 「あなたは……何故そんなに恥ずかしいことを言えるのですか」

 「ヤミが好きだから」

 何だか、焦りまくってるヤミを見ていたら逆に落ち着いてきた。

 「トランスを使わなくても、闇は十分可愛いよ。……今すぐ抱きしめたいくらい」

 闇の顔が段々赤くなっていく……可愛いなあ。もう少し苛めてみようか。

 「勿論、トランスを使ったって可愛いのは変わらな……ってうわ!?」

 突然、体が宙に浮いた。な、何だ、何が起きてるんだ!?

 「や、ヤミ? ってちょっ、」

 気付けば、ヤミの髪に捕われた俺は、ヤミと一緒に猛スピードで空を飛んでいた。







 どれくらい飛んでいたんだろう。十秒か十分か。ようやく足が地面に付いた。

 「い、息が苦しい……」

 顔面に真っ向から風を受けていたせいで、軽い酸欠状態だ。深呼吸深呼吸。

 「ぐむっ!?」

 今度は引っ張られて木陰に引き込まれた。い、一体何なんだ?



 ぎゅうぅぅぅぅ



 「……え? や、ヤミ?」

 下を見れば、髪の毛で俺をきつく引き寄せたヤミが、俺を強く抱きしめていた。

 「…………動かないでください」

 「え? あ、うん、良いけど……」

 何が何だか分からなかったけれど。

 「…………はぁ」

 嬉しそうに息を吐くヤミを見たら、『キツイ』とか、そういう無粋なことは言えなくなった。







 十分後。

 「……………………」

 後になって自分のしていたことを理解したのか、真っ赤になったヤミがそこにいた。

 「私は……一体何を……」

 「あははは……まあ、俺は嬉しかったけど。ヤミの気持ちの強さが伝わって」

 真っ赤になってトボトボ隣を歩くヤミに微笑む。

 「また今度、してくれると嬉しいな」

 「…………手加減、しませんから








 たい焼きを二つ買って帰路に着く。

 「今日は……楽しかったか?」

 「はい。とても新鮮で、興味深かったです」

 左手でモフモフとたい焼きを食べながら、ヤミが答える。
 まあ、もう片方の手を俺と繋いでいるから、顔は真っ赤なんだけど。

 「そっか、良かった」

 もっと長くこのままの時間が続けばいい、と思った。
 でも、歩いている限りは、いつか終わりにたどり着いてしまうわけで。

 「………………」

 この間からヤミも一緒に住んでいる家。
 でも、今だけはその場所に辿り着きたくなかったな……。

 「今日はここまで、かな」

 名残惜しさを引きずりながらも、ヤミの手を離す。凄く不服そうなんだけど……しょうがない、よな。

 「……ん?」

 と、思ったんだけど……足が動かない。気付けば俺の袖は、金色の髪につかまれている。

 「その……最後に……」

 「ん?」

 グッ、と引き寄せられる。勿論その先にはヤミがいるわけで、前のめりになった俺の顔はヤミのそれに近づいて……。



 ゴツン!



 ……真正面から歯と歯をぶつけた。

 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 正直な話、すっごく痛い。
 でも目の前に気の毒なくらい泣きそうにしながら、口を押さえているヤミがいるわけで。

 「……………………」

 うわあ……何だか見ているだけで可哀想だ……。

 「はは……言ってくれれば良かったのに」

 「……………………?」

 俯いていた顔を上げたヤミの唇に、素早く自分の唇を重ねる。

 「んっ!? んんっ……」

 ヤミは一瞬の硬直したけど、俺の触れるだけの不器用な口付けに答えてくれた。

 「ん…………はあ」

 短いキスが終わり、唇が離れる。

 「それじゃ……行こうか」

 名残惜しいけど、そのまま家に入る。今度は袖に髪は巻きついてこなかった。







 /yami

 「は…………あ」

 キス……された。結城リトに……。
 実感が湧くと同時に、体から力が抜けてその場にくず折れてしまう。

 「あれ……ヤミさん?」

 声に振り向くと、心配そうな顔の美柑が立っていた。

 「だ、大丈夫? 何かあったの?」

 質問しながら手をとって起こしてくれる。

 「あ……もしかしてリトに何かされたとか……」

 「い、いえ。そういうわけでは……」

 ……いえ、無いわけでもないのですが。
 ……取り敢えず、見られていないようで良かったです……。

 「…………美柑」

 「ん? どしたの?」

 「恋とは……良いものなのですね」

 「へ?」

 「…………〜♪」

 「……へ? 鼻歌? ど、どうしたのヤミさん!?」









 後書き


 お前は一体SS一本にどれだけ掛けているのか、と。

 いや、本当申し訳ないです。何とほぼ五ヶ月ぶりですよ。

 まあ、このSSはひっそりと上げておくので、読んでもらえたら良いなあ、くらいな感じで。

 因みに、途中の絵は元ラグビー部の彼(雑記によく登場)が一時間でやってくれました。

 「『To loveる』の金色の闇をチャイナ服の胸控えめ恥じらい追加で」

 こんな無茶な要望に全力で答えてくれた彼には本当に感謝。

 ま、そんな感じでしょうかね。次はAngel Beats!の現実リクエストを書く予定です。

 リトバス書けよ!って話ですけど。いや、余りにもABが好きなのと、まとまったプロット渡されたので。

 これからは色々と書けるようにしたいです。アニメ化記念でアマガミとか。七咲可愛いよ七咲。

 失礼。では、偶然このSSを読んでいただけて、面白いなんて思ってくれた方は、拍手や掲示板へお願いします。

 では、七夜彼方でした。いつかまた、お会いしましょう。(-ω-)ノシ





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